「怪しいね……」
「ええ。これは間違いなく……」
少女たちは行李の中身を確認していた。
俺の侍装束の一部が、彼女たちから見えてしまっているらしい。
だが、俺には今さらどうしようもない。
下手に動けば、いよいよ『かごの中に潜む不審者』の存在を確信されてしまう。
今は『インビジブル・インスペクション』を維持し続け、無言で佇むほかないだろう。
「これはやっぱり……侍だよね?」
「そうだと思います。何かの任務中とかでしょうか?」
「まさか……。ただの変態中年侍でしょ。景春様に言いつけて、打首にしてもらえばいいよ!」
「ちょっと、それさすがにやり過ぎじゃない? 城の務めから追放してもらえれば十分だよ」
少女たちが会話を続ける。
不穏な言葉が飛び交っているな……。
桜花藩の法体制や身分による力関係については、まだよく分かっていない。
だが、彼女たちの会話から察するに……女中と侍にはそれなりの上下関係があるようだ。
藩主の景春に言いつければ、不審者に打首や追放処分を下させることも可能らしい。
逆に言えば、藩主とのコネがなければもみ消される可能性もあるということだろう。
(一言だけ言いたい……。俺は中年ではない。それに、変態でもない。……あっ、二言になってしまった)
俺は心の中でつぶやく。
記憶はまだまだあやふやだ。
しかし、俺がこの世界とは異なる世界から来た転移者だということは、思い出している。
転移時の俺は、20代。
20代前半だったのか中盤だったのか後半だったのか、よく思い出せないが……。
転移してから、たしか3年ぐらいが経過していた気がする。
つまり、今の俺はギリ20代前半の可能性がある。
年齢を高く見積もっても、30代になったばかり。
とにかく、中年ではないことだけは確かだろう。
中年とは概ね40代~50代のことを意味するからな。
そしてそれ以上に重要なこととして、俺は変態ではない。
俺は記憶を取り戻すため、ミッションに従って桜花城を攻め落とす予定を立てている。
その下調べのため、こうして桜花城に潜入して……。
侍に続いて女中たちからも情報を集めるため、女中の休憩室らしき部屋に入って……。
突然帰ってきた女中たちから隠れようと、ふんどしの中に潜り込んでいるだけだ。
フェロモンたっぷりのふんどしには確かに魅力を感じているが、これはあくまで成り行きである。
俺は決して変態などではない!
(よし、自己弁護完了だ)
ふんどしの山に埋もれながら、俺はうなずく。
だが、自己弁護したところで女中たちに通じるわけではない。
「これはもう……やるしかないよね」
「うん! やっちゃおう!」
「いっせーのーでっ! ……でいくよ!!」
女中たちが不穏な会話をしている。
何かを仕掛けるつもりらしい。
「「「いっせーのーでっ!!」」」
女中たちが同時に叫ぶ。
まずい!
やられる!!
(くっ……!)
俺は目を閉じ、ふんどしの中で身を固くする。
そして――
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