ダークガーデンとダダダ団の戦いが佳境を迎えている。
様々な古代魔道具を使ってきた彼らだったが、所詮はザコ。
俺たちダークガーデンの敵ではない。
「さて……。残るはお前1人だぞ?」
「ぐぐぐ……。てめえらみたいな怪しい奴らに、俺がここまで追い詰められるとは……」
ヨゼフが悔しそうに歯噛みしている。
部下はすでに全滅。
彼自身も、被ダメージが大きい上に闘気も消耗している。
「ほら、どうした? さっさと『奥の手』とやらを見せてみろ」
「くっ……言われずとも見せてやる!!」
ヨゼフが懐から何かを取り出す。
どこか不思議な雰囲気のある道具だ。
「この魔道具の力があれば、俺たちが優勢になる! いくぜぇっ!!」
「む……?」
周囲に甘い香りが漂ってくる。
その上、体に妙な感覚がある。
これはいったい……?
「へへへ。効き始めたみたいだな」
「何だと……?」
「この魔道具は『魔法封じの芳香』。これであんたらは、魔法が使えなくなったわけだ!!」
「……ほう。魔法が封じられたのか……。本当にそうかな?」
「ふん! 強がりは止めな! 今に分かる!!」
ヨゼフが勝ち誇ったように笑う。
確かに彼の言う通り、魔力が阻害されているような感じがする。
魔力というのは地球にはなかった存在なので、言語化するのが難しいのだが……。
物理的な動きに例えるなら、先ほどまでは空気中で動かしていた自分の体が、今は水中にあるといった感覚だろうか。
即応性が落ち、最大速度が落ち、さらには余計な体力も消耗してしまう感じだ。
「どうだ? 魔法が使えないだろう? テメェ程度の魔法使いは、これで完封できる! これが『魔法封じの芳香』の効果だ!!」
「なるほどな」
「……? 反応が薄いな。もっと怖がってもいいんだぜ? テメェらダークガーデンは、魔法使いの集団なんだからよ!! 純粋な肉弾戦はできねぇだろ!!!」
ヨゼフがニヤリと笑っている。
完全に勝利を確信した顔だ。
「ふむ……」
俺は静かにヨゼフを眺める。
そして、ゆっくりと口を開く。
「――3つ」
「あ?」
「お前は3つの誤解をしている」
「……どういう意味だ?」
ヨゼフの表情から、余裕が少しばかり消えた。
俺はそのまま言葉を続ける。
「まず1つ目。俺たちは魔法を使えるが、魔法専門というわけではない。当然、肉弾戦もできる」
「はっ! そんなわけあるかよ! ただのハッタリ――」
バキッ!
「何だとっ!?」
ヨゼフの顔色が変わる。
俺が手頃な瓦礫を、素手で握り潰してみせたからだ。
別に魔法使いであっても、魔力で身体能力をブーストすればこれぐらいはできたりする。
だが、今の俺は『魔法封じの芳香』の影響下にある。
この状況において素手で瓦礫を破壊できるということは、素の身体能力や闘気量が十分に高いということの証明になる。
「2つ目。お前はさっき、『テメェ程度の魔法使いは、これで完封できる』と言ったな。それは間違いだ」
「つ、強がりはよせ! お前の影魔法の練度はなかなかだが、出力自体が低いことは分かってんだよ!」
「それこそ勘違いだ。俺の本来の実力はこれじゃない」
「バカを言うな! なら、どうして今まで本気を出してこなかった!?」
「これが答えさ。――【影棺・解放】」
ドサドサ……。
俺が唱えた瞬間、地面から黒い棺桶が現れる。
その中で気絶していた3人のチンピラが、無造作に投げ出された。
「コイツらは……」
「お前の部下たちだ。見覚えがあるだろう?」
「……! コイツら、冒険者タケシの始末に向かわせた連中じゃねえか!」
ヨゼフが目を剥いている。
Dランク冒険者の始末に向かった部下が、なぜか侵入者の魔法に囚われていたのだ。
驚くのも当然だろう。
「なぜテメェがコイツらを……!?」
「なに、大したことではない。俺が通るところを塞いでいたのでな。ちょっと眠らせてやっただけだ。コイツらを収納するために魔力を割いていたから、本気を出せていなかったのだ」
「……!!」
ヨゼフが絶句している。
人間3人を影の中に収納する――。
そんなことは空間魔法の『アイテムボックス』や『アイテムルーム』でも不可能だ。
影魔法ならではの芸当なのだが、それも簡単にはできない。
かなりの魔力を消費することになる。
チンピラ3人を収納し、なお余力を残したままヨゼフたちと戦っていたという事実は、彼の想像を超えていたらしい。
俺の口撃で、いい感じに動揺させることができたな。
続く3つ目の誤解も指摘して、さらに動揺させてやることにしよう。
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