「くっ! どうしてこんな街中に霧が……?」
チンピラたちがうろたえる。
そして、彼らの視界の端から青い影が飛び出した。
「ぐあっ!」
「ぎゃあぁっ!!」
それは俊敏な動きでチンピラたち数人を撃破する。
そして、木箱の上に立った。
「……正義の味方。ブルー仮面参上……」
少女は静かにそう名乗った。
クールな雰囲気だが、顔には青色の下着を被っている。
まごうことなき変態だ。
グリーン仮面と同じく、レッドのように体を露出させていないだけいくらかマシな程度である。
「ちぃっ! また新手かよ!」
「こ、こんな訳の分からん奴らと戦ってられるか! 俺は逃げるぞ!!」
数人のチンピラたちが逃げ出した。
彼らが知るはずもないが、この場にいる仮面の戦士はいずれも強者だ。
タカシとミティはBランク冒険者だし、雪はCランク冒険者である。
逃げるという選択は、戦うことに比べれば明らかにマシな選択肢であろう。
「ふん。逃がすものですか」
「……させない……」
グリーン仮面とブルー仮面が追いかけようとする。
「まぁ待て。奴らを追う必要はない」
「ですが、タカ――いえ、レッド仮面様。ここで逃してしまえば少し面倒では?」
「あれを見てみろ」
レッド仮面は、逃げていくチンピラたちを指さした。
彼らは必死の形相で逃げている。
刹那――
ヒュッ!
彼らの身体を何かが切り裂いた。
「切り捨て御免……」
「へ? ぎゃああぁっ!」
「ぐっはあああぁ!!」
チンピラたちが倒れ込む。
「正義の味方、いえろー仮面参上でござる」
現れたのは、金髪の女性であった。
しかしその頭部に金色の下着を被っていた。
彼女も変態である。
「ひいいぃっ!」
「み、みんなやられちまった……。後は俺たちだけかよっ!」
「ふ、ふざけるなぁ! 俺たちが何をしたって言うんだ!!」
チンピラたちは戦意を喪失していた。
まともに戦っても勝てないと、理解したのだ。
「何をって……。そちらの女性に狼藉を働こうとしたではないか」
「お、俺たちはそんなこと知らねぇ! ただ、リーダーに呼ばれて駆け付けただけで……」
「ふむ?」
レッド仮面が思案顔になる。
彼が脳内で時系列を整理する。
数人のチンピラが女性に絡んでいた。
レッド仮面が駆け付けた。
チンピラたちの増援がやって来た。
グリーン仮面、ブルー仮面、イエロー仮面が駆け付けた。
……といった感じだ。
最初からいた数人のチンピラの罪状は、女性への乱暴未遂とオパンツ仮面たちへの傷害未遂といったところで間違いない。
しかし一方で、増援で駆け付けたチンピラたちの罪状はどうなるのか。
厳密に考えれば、オパンツ仮面たちへの傷害未遂だけになるようにも思えるが――。
「ふん。そんな屁理屈が通るとでも? そのリーダーとやらに呼ばれて加勢した時点で、お前たちは同罪なのさ」
レッド仮面は、現代日本の法理論も多少は知っている。
現代日本における事例を考えてみよう。
数人の不良グループが女性を強姦した。
その下っ端構成員は直接は参加しなかったものの、犯行現場に通行人が来ないようにするための見張り役を務めていた。
この場合、下っ端構成員の罪状はどうなるのか。
具体的なケースにおける詳細な事情にも左右されるが、強姦の共同正犯として罪に問われる可能性が高い。
もちろん今回のケースとは異なる点も多いのだが……。
少なくとも、軽微な罪ではないことは確かだ。
「ふふ……。お前たちも運が悪かったな。この俺に見つかるとは」
「な、何を言っていやがる……。この変態野郎が……!」
「変態ではない。オパンツ戦隊だ」
「意味がわかんねぇよ……」
「ふっ……」
実を言えば、レッド仮面の中身――タカシもよく意味が分かっていない。
風魔法の鍛錬中に女性の悲鳴を聞いて現場に急行することにしたが、さすがに全裸のままはマズいと考えて股間部に赤いブーメランパンツを穿いたのだ。
パンツ一丁では変態のように見えるため、顔も隠すことにした。
彼のアイテムボックスには様々な物資が入っているが、なにせ急いでいたので中身を吟味する余裕がなかった。
そのため、咄嗟に取り出した女性ものの赤いパンツを顔に被って参上したわけだ。
こんなことなら、まだパンツ一丁の方がマシだった気もするが、細かいことはいいだろう。
「変態野郎とこれ以上話しても仕方ねぇ……」
「へへっ! これを見やがれ! 俺たちに手を出せば、こいつをぶっ殺すぜ?」
「ひっ……。いやぁ……」
チンピラたちは最後の手段に出た。
人質を取ってしまったのだ。
「ふむ。それは困るな」
「くっくっく……! もう手出しできねぇだろ? さぁ、道を開けやがれ!!」
「…………」
レッド仮面が沈黙する。
彼の実力をもってすれば、この状況からでもチンピラを無力化できる。
だが、人質に取られた女性も多少の傷を負う可能性がある。
もちろん、このまま逃がすわけにはいかない。
多少の傷程度は女性に覚悟してもらって救出した方が良いのだが――。
「へへっ! おらおら、道を開けな!!」
「「「…………」」」
グリーン仮面、ブルー仮面、イエロー仮面も同じく手を出さない。
人質を取られたぐらいで手を出せなくなる脆弱な集団――というわけではもちろんない。
自分たちが動くよりも、よりよい手段があることを知っているのだ。
「【ワープ】」
「へ?」
チンピラの一人が呆けた声を出す。
次の瞬間、チンピラが抱えていたはずの女性はいなくなっていた。
「あぁ!? ど、どこに行きやがった!」
「ふふ。彼女でしたら……こちらですが?」
余裕ぶった口調と共に、新たな女性が姿を現した。
もちろん彼女も頭部に女性もののパンツを被っている。
ピンク色のパンツだ。
「正義の味方、ピンク仮面参上です! 悪党ども、観念なさい!!」
「なっ! 変態共の仲間かよ!」
「はい。仲間ですよ」
「ちぃっ! どんな手品を使いやがった!? こ、こうなったら――」
チンピラたちが一斉に武器を構える。
「うおおぉっ!」
「せいやあああっ!」
「死ねやああぁっ!」
迫りくる男たちを前に、ピンク仮面は小さく呟いた。
「【ワープ】」
「は?」
チンピラたちの攻撃は空振りに終わった。
目の前から、ピンク仮面がいなくなっていたのだ。
「よくやった、レイ――いや、ピンク仮面よ」
「はいっ! 上手くいきました! レッド仮面様!!」
「ふむ。人質は無事に確保したし、残るチンピラたちはあの数人だけ。これならば――」
レッド仮面は、拳を構えた。
「俺一人で十分だ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!