「第3試合を始めます! 怪力ドワーフのミティ選手対、ファウス道場出身のマーチン選手!」
ミティの試合だ。
「ミティ。悔いのないようにね!」
「ミティ! 俺の分までがんばってくれ! ただし、無理はしないようにな!」
「絶対に勝ちます! 見ていてください! むんっ」
俺とアイリスの激励を受けて、ミティが気合を入れる。
ミティとマーチンがステージに上がる。
マーチンは、俺の対戦相手だったミッシェルと同じ道場出身の選手だ。
選手紹介時のコメントによると、スピード重視の選手のようだった。
優勝予想の倍率は、ミティが27倍に対して、マーチンが7倍だ。
格上の相手だが、なんとかミティにはがんばって欲しい。
「両者構えて、……始め!」
開始と同時に、マーチンが動く。
かなりの速度だ。
「ばぁっ!」
「……っ!」
あっという間にミティに近づき、一撃を入れて離脱した。
ヒットアンドアウェイか。
「うふふ。不意を突かれたにせよ、反応速度はお粗末ね」
「うるさいですね。不意打ちしか脳のないオカマ野郎が」
結構口が悪いなミティ。
いや、口撃も技術のうち、ということか。
勝つためにはこういうのもありだろう。
確かにミティの言う通り、このマーチンは若干オネエ系だ。
顔立ちや服装は男なんだが、言葉遣いがな。
「うふふ。そんな安い挑発には乗らないわよ」
マーチンが再びミティに近づき、一撃を入れて離脱した。
ミティはほとんど反応できない。
「あなた、パンチの打ち方を知っているのかしら? 突っ立ってるだけじゃ、試合には勝てないわよ」
マーチンが再びミティに近づき、一撃を入れて離脱した。
ミティはやはりほとんど反応できない。
「今回の予選突破者はレベルが低いわねえ」
マーチンがため息をつき、肩をすくめる。
「タケシとかいうやつも、ミッシェルに負けてたし。無様な敗北者ね」
タケシじゃなくてタカシだよ。
まあ1回戦で負けたのは事実だが。
マーチンの言葉を受けて、ミティの顔色が変わる。
「取り消せよ……!!! 今の言葉……!!!」
「あら? どうかした?」
マーチンは不思議そうにしている。
挑発はしたのは彼とはいえ、ミティがそれほどまでに怒るのが理解できないようだ。
挑発に乗っては、勝率がぐっと低くなってしまう。
のるなミティ!!!
戻れ!!!
怒るミティを見て、マーチンがにやりと笑う。
挑発のいいネタを見つけたと言わんばかりだ。
「あのタケシも、あなたと同類ね。冒険者のくせに武闘家の領域に出てくるから恥をかく!」
マーチンがミティに近づき、一撃を入れて離脱する。
「ふふふ。せっかくだし、実力の差を見せて終わりにしてあげる」
マーチンの闘気の質が変容していく。
「散桜拳奥義! 桜吹雪の舞!」
マーチンが目にも止まらぬ速さで動き回る。
ミティに一撃を入れては離脱し、また一撃を入れては離脱する。
とてつもないラッシュだ。
ミティは棒立ちで、ほとんど攻撃に反応していない。
「パンチの打ち方を知ってるかって…?」
ミティがパンチの構えをとる。
拳に闘気を集中させている。
それを意に介さず、マーチンがミティに一撃を入れては離脱を繰り返している。
もうミティはボロボロだ。
マーチンがとどめとばかりに、大きめのモーションでミティに攻撃をしかける。
「あばよ!!!! ルーキー」
ミティはその隙を逃さず。
マーチンにパンチを振り下ろした。
「!!!?」
…………!?
会場がどよめきに包まれる。
ミティのパンチはマーチンにもろに入った。
会心の一撃だ。
状況は完全にマーチン優勢だったが、一瞬の気の緩みをついたミティの一撃が決まったのだ。
審判がかけより、状況を判断する。
「そこまで! 勝者ミティ選手!」
「うおおお! よくがんばったなミティ!」
感動した!
格上相手に大金星だ!
思わずステージにかけより、ミティを抱きしめる。
体中が打撲だらけだ。
この小さな体でよく闘った!
治療魔法を発動して治療しつつ、抱きしめ続ける。
「あ、ありがとうございます! タカシ様!」
しばらくの間、抱きあっていた。
ふと気がつく。
ここはステージの上じゃねえか。
観客に見られている。
やべえ。
早く退散しよう。
「次の試合もありますので、そのあたりでお引取りください」
審判の人にも注意されてしまった。
苦笑された感じだ。
ガチの注意ではないのが救いか。
「ミティ! ミティ! ミティ!」
会場はミティコール。
ちょっとした人気者だ。
小柄な少女が、中堅上位の男性選手を倒したのだ。
インパクトは大きい。
ミティに賭けていた人は、この試合だけでもそれなりに儲けただろう。
ミティと控室に戻る。
控室で、治療術師からミティに治療魔法をかけてもらう。
治療魔法に加え、テーピングなども施されていく。
「ミティ。改めて勝利おめでとう!」
「おめでとう! すごい試合だったよ!」
俺とアイリスで、拍手して祝う。
「タカシ様! アイリスさん! ありがとうございます! がんばりました!」
ミティはガッツポーズをして嬉しそうだ。
「あっ。動かないで」
治療術師に動きを咎められた。
まあそりゃそうか。
主催側の計らいで、治療サービスを受けられるのはありがたいな。
ただ、治療できるのはあくまで外傷だ。
疲労は取り除けない。
明日には2回戦がある。
しっかり休んでもらわないとな。
治療が終わる。
「ミティ。ずっと相手に押されていたけど、よく耐えたね。作戦通りか?」
「いえ。正直に言えば、手も足も出なかっただけです。ただ、途中から挑発に乗ってしまって、よく覚えていないです」
「まあ勝てたから良しとしよう。それより、疲れているだろう。明日に備えて宿屋に帰るか?」
本当はもう少し観戦したいが、ミティの明日の試合も大切だ。
彼女自身、明日も勝てれば嬉しいだろう。
実利としても、こういう大舞台での戦闘により経験値が稼げるかもしれない。
また、明日も勝てればベスト4に入れるので、そこそこの賞金ももらえる。
「いえ。傷さえ治れば、疲労はそれほどでもないです。それよりも、他の選手の試合を見ておきたいです。アイリスさんの試合もありますし」
まあミティが大丈夫というなら大丈夫か。
確かに、疲労を取るのも大切だが、他の選手の研究も大切だ。
アイリスの応援もしたいしな。
「ありがとう。ボクも1回戦、勝ってみせるよ」
アイリスはやる気まんまんだ。
果たしてどうなるか。
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