「男爵様……。弱い私を、どうか支配してください……」
オリビアが俺に頭をこすりつけてくる。
彼女は完全に俺に屈服したようだ。
年上のクールビューティーのこういう姿は、なかなかクるものがある。
「ふっ……。俺に惚れると、火傷するぜ?」
「あぁ……。男爵様ぁ……」
俺はオリビアの耳元で囁く。
余裕ぶっているが、内心では冷や汗ダラダラだ。
(一体、何が起こったんだ? 俺は、何をしたんだ……?)
俺は自分に問いかけるように、自分の股間を見る。
そこには……。
使用済みのモノがあった。
(ええっと……。俺は、混乱するオリビアをヘッドロックで絞め落として……そして……)
彼女を無力化するまでは良かったとしよう。
計算外だったのは、その時点で俺の幻惑魔法『ミラージュ』が解除されていたことだ。
おそらくだが、オリビアの右手から与えられた衝撃と快感で魔法の制御を失ってしまっていたのだ。
そして、彼女は意識を失う瞬間にこう呟いた。
――『つ、強い……。ダメ……この人には……勝てない……。支配……されちゃう……』と。
どうやら、オリビアには被支配願望があったらしい。
混乱状態の彼女を無力化するために、俺がある程度の全力を出してしまったこと。
俺が直前までおっさんに扮しており、オリビアは俺の顔を認識しつつも正体を測りかね、全力で抵抗したこと。
それにもかかわらず、俺の腕がビクともしなかったこと。
ヘッドロックで絞め上げられ、一種の快楽物質が脳内に分泌されたこと。
それらの結果、彼女の被支配願望が満たされ、俺に心酔してしまったようである。
「ふふ……。男爵様の子種……。強き雄の前では、私など支配されるのみです……」
「ふっ……。ああ、いつまでも支配してやるぜ」
オリビアはうっとりとした顔で、俺を見上げてくる。
半ば事故とはいえ、その後の流れでちゃっかりとヤッてしまったことはマズかったかもしれない。
彼女の主人は、俺の妻であるサリエなのに……。
俺はオリビアの手前、余裕の態度を崩さない。
しかし、内心はガチで冷や汗ダラダラである。
(落ち着け、俺! ちゃんと成果もあったじゃないか!!)
オリビアというクールビューティーと関係を持てたのが最大の成果だ。
しかしそれとは別の成果もある。
彼女が加護(小)の条件を満たしたのだ。
レベル?、オリビア=メイヤー
種族:ハーフオーガ
身分:平民
役割:ハイブリッジ男爵家第八夫人従者
職業:影メイド
ランク:C
HP:??
MP:低め
腕力:??
脚力:??
体力:??
器用:高め
魔力:??
残りスキルポイント:???
スキル:
剣術レベル3(2+1)
気配隠匿レベル3(2+1)
清掃術レベル4(3+1)
??
俺はオリビアのステータスを確認する。
決して、目の前の現実から目をそらすためではない。
オリビアのステータスをちゃんと確認しておくことも、領主として非常に重要なことだからな。
(ええっと……。ハーフオーガだって?)
彼女の両親は普通のヒューマンだと聞いていたが……。
たぶん、ハーフハーピィのヒナと似たような感じかな?
先祖返りか何かで、オーガの血がやや濃い目に出たのだろう。
特に問題はない。
(他のステータスは……ふむふむ。――ん?)
コンコン……。
ノックの音が、部屋に響いた。
「オリビア? 急患の対応とはいえ、時間が長すぎませんか? 何か不測の事態でもありましたか?」
個室の出入り口の扉から、サリエの声が聞こえてくる。
どうやら、オリビアの急患対応が長引いていることを不審に思ったらしい。
俺はさらに焦る。
(マズい! これは非常にマズい!!)
しかし、時すでに遅しだ。
サリエが個室の中に入ってくる。
「オリビア、いったい何をして……」
入ってきたサリエは、ベッドに倒れ込む俺とオリビアを視界に捉える。
そして――
「えっ!? タカシさん……!? いつの間に戻られて……って、そっちはオリビア!? え? ……え?」
「「…………」
3人の間に沈黙が流れる。
終わった……。
俺は破滅する……。
そんな予感を抱く俺だったが――
「な、なるほど。タイミングは予想外でしたが、ついにタカシさんから手を出されたのですね? ようやくですね、オリビア?」
「はい、サリエお嬢様。私は男爵様から支配される喜びを教えていただきました。私の忠誠はお嬢様に向いていますが、それと同時に男爵様に支配されてしまったのです……。ふふ……」
「え!? 2人とも何を言っているんだ!?」
どうして2人はこんな会話を繰り広げている!?
サリエは『ついに』とか『ようやく』とか言ってるし、オリビアはどこか満足げだ。
俺は理解が追いつかない。
そんな俺を見て、サリエはクスクスと笑う。
「以前も言っていたではありませんか。タカシさんと私の結婚式が無事に終了したら、落ち着いた頃にオリビアも側室入りをするかも……と」
「いや、しかし……」
確かに言っていた。
だが、その場の雰囲気もあったし、まだあまり本気にはしていなかった。
「ふふ……。男爵様に支配されたおかげで、私は自分の心の在り方が明確になりました。サリエお嬢様と男爵様のため、私は陰ながら微力を尽くしていきたいと思います」
オリビアは晴れやかな顔で宣言する。
そんな彼女は、とても美しく力強い。
「みんなで力を合わせて、幸せになりましょう」
「そうだな……。サリエ、オリビア。これからもよろしく頼む」
サリエはミリオンズの一員として、非常に頼もしい。
そしてオリビア。
彼女がいれば、ミリオンズが留守中のハイブリッジ領も安泰だ。
俺はそのように思ったのだった。
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