「ふうむ。ここが違法賭博場か……」
俺は一般街の裏路地にある酒場の前に来ていた。
「ここの地下で高額なギャンブルが行われているそうですね」
「過度に高額な賭け事は、身の破滅を招きます。王国法によって禁じられているのですが……」
俺に付いてきていたミティとナオミがそう言う。
「……『闇蛇団』か」
「噂は聞いていたけど、本当に存在するなんてね……」
ネスターとシェリーも一緒に来ている。
戦闘能力だけを考えるなら、アイリスやモニカの方がもちろん強い。
ミリオンズ以外でも、キリヤや雪月花がいる。
それなのに彼ら2人を選んだのは、本人たちが希望していたからだ。
賊に対して何やら思うところがあるらしいが……。
「邪魔するぜぇ……」
ドカッ!
俺は入り口のドアを蹴破り、先頭に立って中に入る。
「おい! ここは会員制だ! 部外者は帰れ!」
店員らしき男が声をかけてくるが、無視して奥に進む。
「ちっ! おいっ! 聞いてんのか!」
「うるせえ!」
「ぐへっ!」
俺は男を殴り飛ばした。
「な、なんだテメエ!」
店内にいた男たちが一斉に武器を構える。
「俺たちはギャンブルを楽しみに来ただけだ。案内してもらおうか」
「バカ言え! ここは酒場だ! ギャンブルなんざやってねえよ!」
男がそう答える。
あれ?
おかしいな。
ここが違法賭博場だと、千やキサラから聞いていたのだが。
ひょっとして俺の記憶違いか?
いきなり暴力を振るって悪かったな。
蹴り破った入り口のドアも弁償しないと。
……いや待て。
地下から人の気配を感じる。
それも、1人や2人ではない。
「おやおや? 地下で何かやっているのではないか?」
「何!? お前、どこでそのことを……」
やはりそうか。
俺の勘違いでなくて何よりだ。
「地下への階段はどこだ?」
「ふざけんじゃねぇ!」
「じゃあ力ずくで聞き出すしかないかな……」
「くっ! 野郎ども! やっちまえ!」
「「「おおっ!」」」
男たちが一斉に襲ってくる。
だが、その動きは素人丸出しである。
所詮は街のチンピラレベルだな。
黒狼団や白狼団と比べても、動きが悪い。
裏でコソコソするだけが取り柄の組織だからかな。
「ふん!」
「ぐふぅ……」
俺が軽く殴ると、男は簡単に吹き飛んでいった。
まずは1人。
「こいつ、強ぇぞ!」
「構わねえ。囲んでタコ殴りにするんだ!」
1人が倒れたことで、他の男たちも多少は慎重になったようだ。
しかし、まだまだ連携もクソもない雑魚ばかりだな。
「うぉりゃああああっ!!」
「はぁああああっ!!」
2人組の男が左右から同時に襲いかかってきた。
だが、甘い。
「ふん」
「ぶげらっ……」
「どべらっ……」
俺は両手でそれぞれを受け止め、そのまま押し返した。
「ぐはぁ」
「ごはぁ」
仲良く壁に激突する。
これで3人。
「な、なんて奴だ……」
「どうなってんだよ……」
残った連中はすっかり戦意を喪失してしまったらしい。
明らかに尻込みしている。
「ヒャハハッ!! 油断したな! 下手に動けば、こいつの命はねえぜ!」
背後に回った男が、ミティの首筋にナイフを突きつけていた。
人質を取るとは卑怯な真似を……。
だが、俺に対しては有効な手段だ。
黒狼団との戦いでも、キサラがナオミを人質に取ったことがあった。
「動くなよ! 動いたらこのガキを殺す!」
「クッ……」
俺は拳を握ったまま動けなくなった。
このままではミティが殺されてしまう。
学ばないな、俺も。
同じ失敗を繰り返す。
「ん? 嬢ちゃん、抵抗するのか?」
「…………」
ミティが男の腕に手をかける。
「ヒャハハハッ!! ガキの細腕でどうにかなると思ってるのか? 変なことをするなら命はねえぞ。軽く傷でも付けて、思い知らせてやるか。……ん? 俺の腕がビクともしねえ……」
「…………」
ミティが無言で男の腕を掴む力を強めていく。
彼女の外見年齢は幼いので、男は何か勘違いしているようだが。
彼女の膂力はとんでもない水準にある。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……痛い……本当に痛い……! やめろ! やめてくれ!!」
ミティは男の懇願を無視して、さらに力を込める。
「ぎぃやあああああっ!!!」
男は絶叫を上げ、床に崩れ落ちた。
「ひ、ひでえ……。折れてやがるぜ」
「こ、こいつも化け物か!」
周囲の男たちが怯えた表情を浮かべていた。
よく考えれば、ミティを人質に取っても何の意味もないよな。
こうして自力で打開できるのだから。
もちろんミティも無敵ではない。
彼女を人質に取れる実力者もいるだろう。
この国で言えば、ネルエラ陛下とか誓約の五騎士とか。
だが、彼らクラスになれば、そもそも人質など取らずに俺と真っ向から戦えばいい。
ミティを人質に取る作戦が有効となるのは、『ミティを人質に取れるほどの実力がありながらも、俺と正面からぶつかると敗色濃厚な者』だ。
そういった人物はかなり限られてくる。
これはミティ以外のミリオンズの面々に対しても似たようなことが言える。
人質作戦を過剰に警戒する必要はないか……。
俺がそんなことを考えていたときだった。
「くっ! ならばこっちだ! この女騎士に……」
また別の男が、今度はナオミに向かう。
「ナオミちゃん!」
マズイぞ。
さすがに彼女はミティほどの実力を持っていない。
人質になれば、自力で脱出はできないだろう。
「甘いです!」
「なにっ!? ギャアアッ!!」
ナオミは襲ってきた男の手を掴み、そのまま背負投げを決めた。
「あなたたちみたいなチンピラに負けるほど、アタシは弱くありません!」
彼女がそう宣言する。
確かに、それもそうか。
まだ見習いとはいえ、彼女は騎士として訓練を受けている。
街のゴロツキ程度に遅れを取ることはない。
黒狼団で囚われの身となっていたのは、相手が悪かっただけだ。
「あらかた片付いたかと」
「こんなもんさね」
ネスターとシェリーも、数人のチンピラを制圧している。
元はDランク冒険者から奴隷堕ちしてしまった彼らだが、警備兵としての活動の傍らで冒険者にも復帰している。
今の彼らはCランク冒険者だ。
チンピラ程度には負けない。
俺、ミティ、ナオミ、ネスター、シェリー。
それぞれの活躍により、この1階の酒場は制圧した。
そろそろ地下の賭博場へ案内してもらいたいところだな。
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