俺がナオミを登用した翌朝になった。
「「「「じー……」」」」
「な、なんだ?」
ミリオンズの女性陣が、ジト目でこちらを見ている。
「昨日はお楽しみだったみたいだね」
「声が聞こえていたよ」
「そ、それに匂いも強いです」
アイリス、モニカ、ニムがそう指摘する。
アイリスは『気配察知術』、モニカは『聴覚強化』、ニムは『嗅覚強化』のスキルを持っている。
彼女たちなら、俺が昨晩何をしていたのか勘づくのも当然だ。
「まさか早速手を出されたのですか? 弱い立場の者を襲うなんて、貴族にあるまじき行為です」
「確かにそうでござるな。弱者は守るべきもの。それが武士道というものでござろう。拙者も、なおみ殿に同情いたす……」
サリエと蓮華が責めるような視線を俺に向ける。
サリエはサザリアナ王国の男爵家の令嬢として育てられた。
しっかりとした貴族意識を持っている。
蓮華は、ヤマト連邦の武士階級の出身だったか。
より上位の将軍や当主に仕える立場である。
しかしそれと同時に、一般民衆の安寧を守る立場でもあるといったところか。
「いやいやいや。待ってくれ。ナオミには手を出していないぞ。マッサージはしたが、別に無理矢理襲ったりはしていない」
俺はそう弁明する。
これは事実だ。
レインから全面的なサポートを受けたが、最後の一線だけは越える決心が付かなかった。
ナオミの股間部は準備万端だったので、惜しいことをしてしまったような気もするが……。
「そうなのですか? タカシ様なら当然、手を出されたものだと思っていましたが」
「ふふん。甘いわね、ミティ。タカシのヘタレっぷりを舐めてはいけないわ。かつては私も、なかなか手を出されなくて悶々としていたのだから」
ミティの言葉に、ユナがそう指摘する。
俺とユナは、初対面の頃から結構仲良くしていた。
ソロで活動していた俺を、ユナを含む”赤き大牙”の面々が臨時パーティに誘ってくれたのだ。
臨時の割にはかなり打ち解けることができたが、さすがに体の関係を結ぶには早すぎる。
その後は、ゾルフ砦やラーグの街にて再会する機会があり、食事会を開いたりしてさらに打ち解けた。
そして彼女1人だけが俺たちミリオンズに加入して、彼女の故郷ウォルフ村の一件や、その後のブギー盗掘団戦やファイアードラゴン戦でも活躍してくれた。
俺と彼女が男女の関係を結んだのはファイアードラゴン戦の後だ。
それが、彼女視点で見ればずいぶんと遅いタイミングだったらしい。
いったいどこで手を出すのが正解だったのだろうか……。
「そうですわね。タカシさんは、昔からわたくしの胸を見ている割には、実際の行動には移されませんでした。自分を律する能力のある方なのです」
リーゼロッテの言葉がそう言う。
俺とリーゼロッテの関係性の進展の早さは、ユナとかなり似ている。
出会ったタイミングはユナとほぼ同時期で、ともに西の森へ遠征を行った。
その後にチラホラと再会する機会があり、食事会をともにしてさらに打ち解けたのも共通している。
俺が騎士爵を授かった頃に彼女がラスターレイン伯爵家の使者としてラーグの街を訪れ、その流れで俺はラスターレイン伯爵領に赴いたのだ。
そんな俺と彼女が男女として夜をともにしたのは、ファイアードラゴン戦の後だ。
ユナとの一件の数日前のことである。
「ああ、そう言われてみれば、確かにそうですね。私とタカシ様の初めても……」
ミティが思い出したかのようにそう言う。
俺は奴隷の彼女を購入し、パーティメンバーとして苦楽をともにしてきた。
だが、実際に深い関係を結んだのは購入して4か月以上が経過してからのことだった。
風呂で背中を流してもらっているときに、ミティによって俺が押し倒されてしまったのだ。
俺が彼女を押し倒したのではなく、その逆というのがポイントだ。
彼女の思い切りの良さがなければ、さながら少年漫画のように煮え切らない展開が続いていたかもしれない。
「タカシお兄ちゃんは優しいから好きっ! マリアにも、いつも優しくしてくれて――」
「ま、マリアちゃん……。それは内緒です!」
口を滑らせそうになったマリアに口を、ニムが慌てて塞ぐ。
この国におけるロリコン規制は、現代日本ほど厳しくない。
だが、あまり大っぴらにするようなものでもない。
俺とマリアが具体的にどこまで進んでいるかは、秘中の秘だ。
そんな2人を見て、他の皆がクスリと笑う。
「ま、まぁまぁ。ナオミちゃんと俺の関係は置いておこう。それよりも、彼女について1つ報告があるんだ」
俺は話を切り替える。
男女の関係性は別として、俺と彼女にはもう1つの関係性がある。
すなわち、男爵家当主とその配下の一般警備兵としての関係性だ。
そんな彼女に関して、1つ嬉しいニュースがある。
ミリオンズのみんなにも無関係なことではないので、この場で報告しておこう。
俺はそう考え、話を切り出そうとしたのだが――
「あ、ああっ! 寝坊しました! なんという失態!!」
離れた部屋から、そんな叫び声が聞こえてきた。
この声はナオミの声だ。
今の時間は、朝の9時くらいだ。
少し遅い起床ではあるが、大騒ぎするほどの寝坊ではない。
「は、早く着替えないと! アタシの服は――って、ああっ!!」
ドンガラガッシャーン!!
という大きな音が響いてくる。
「いったい何をしているんだ……」
俺は苦笑しつつ、ナオミの様子を見に行くことにしたのだった。
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