「おお、あれが夜の桜花城か……。心なしか、いつもよりはっきりと見える気がする」
俺は夜の桜花城を見上げながら呟いた。
俺は『視力強化』というスキルを所持している。
遠くを見る能力、近くの細かいものを見る能力、動体視力などの他、暗視能力も強化されている。
暗闇において、常人よりもよく見えるのは当然のことだが……。
そのスキル効果を考慮しても、いつも以上に見える気がする。
「鮮やかな桜花城……。夜の闇が、さらにそれを引き立てているな……」
俺は感嘆の声を漏らす。
昼間はごく普通に見えていた桜花城。
夜の闇に紛れた今は、その美しさが際立っていた。
決して気のせいではない。
城のあちこちから、闇の瘴気が溢れている。
「実に……実に素晴らしい!!」
俺は思わず、桜花城の天守閣に向かって叫んでいた。
闇の瘴気が俺の心と共鳴している。
これほど見事な闇、若造藩主の景春や愚鈍な侍どもにはもったいない。
「俺の闇は俺のもの! お前らの闇も俺のものだ! 【闇の大螺旋】ん!!!」
俺は両手のひらを桜花城に向け、闇の魔法を発動させる。
突き出した両手のひらに、瘴気が吸い込まれていく。
やがてそれは大きな螺旋状になり、桜花城全ての闇を吸い付くし始めた。
「ふ、ふふふ……! さぁ、来い! 闇の力よ!!」
俺の全身に力がみなぎる。
体内で闇の瘴気が渦を巻き、俺を強化しているのだ。
「はーっはっはっはっ!! 素晴らしい! 実に素晴らしいぞ!! 俺は今、最強の力を手にしたのだ!!!」
俺は高笑いを響かせる。
闇の力に覚醒し、俺はさらに強くなった。
おそらく、闇魔法のスキルレベルが上がっているはずだ。
それだけではない。
闇のオーラを他の属性と混ぜることで、より多彩な攻撃ができるようになるだろう。
そして何より、精神的な影響も大きい。
闇の瘴気によって、意思の力が強化されたのだ。
自分の欲望に忠実になり、行動の思い切りが良くなる。
今なら、どんな敵にも負ける気がしない!
「ふ……ふふ……。少し前までの俺は、闇の瘴気を忌避し恐れていた。だが、今は違う。俺は闇の力を、完全に受け入れた」
そう、今の『俺』は闇を手にする前の『俺』とは全く違うのだ。
まるで生まれ変わったような気分である。
「今となっては、馬鹿みたいだよ。俺はいったい、何を恐れていたのか?」
俺は夜空を仰ぎ見る。
広大な闇が俺を祝福してくれているかのようだ。
「知らなかった! 闇がこんなに美しいものだったことに!!」
闇……。
人間の根源的な恐怖と嫌悪の対象。
その闇の美しさを、俺は初めて理解した。
「知らなかった! 闇がこんなに優しいものだったことに!!」
俺は両手を夜空に掲げる。
この美しい闇を、もっと味わいたい!
そうだ、街を探せば瘴気を抱えた住民も見つかるんじゃないか?
貴重な瘴気は、そこらの一般人などにはもったいない。
「さぁ、行こう! 桜花藩の闇は、全て俺のものだ!! ぎゃはははは!!」
俺は夜の街を駆ける。
新たな力を手に入れ、心が躍る。
今なら、何でもできそうだ!
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