俺はジャイアントクラーケンと戦っている。
新技の『神霊纏装』によってそれなりのダメージを与えた。
時間稼ぎは成功と言っていいだろう。
だが、結果的にはそのダメージ量は中途半端なものになってしまった。
ジャイアントクラーケンが生命の危機を感じて逃げるほどでもなく、かと言って俺という存在への無関心を維持するほどでもない。
今すぐに俺が隠密小型船に合流しようと移動を始めれば、奴は追いかけてくるだろう。
それは困る。
「ふぅ……」
俺は呼吸を整える。
俺の力の根源は、大きく3つある。
魔法の発動に使用するMP。
聖なる力、聖気。
そして、身体能力を底上げする力――闘気だ。
聖気は既に空っぽ。
MPには多少の余裕があるものの、空間魔法や重力魔法を維持するために温存する必要がある。
そのため、すぐに攻撃に回せるのは闘気だけだ。
「かぁっ!! おおおおおぉっ!!!」
俺は気を高める。
俺の全身を、闘気が覆い尽くす。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンが、咆哮を上げる。
奴は無数の触手で俺を狙ってきた。
「はあああぁ……!! っあああぁっ!!!」
俺はさらに闘気を高める。
全身を覆い尽くしていた闘気が、さらに大きく膨れ上がっていく。
そして――。
ドゴオオォォンッ……!!
爆発的な衝撃音。
俺の闘気が弾け、触手の一部を吹っ飛ばしたのだ。
「ゴオオォッ!?」
ジャイアントクラーケンが驚愕の声を上げる。
別に、今のは攻撃ではない。
この形態に変化する際に発生した余波のようなものだ。
「時間がかかってすまなかったな。まだこの変化に慣れていないんだ。名付けるなら、【英霊纏装・ベテルギウス・不完全】ってところか……」
俺を力強い闘気が覆っている。
俺はそれらをコントロールし、身体にフィットさせていく。
「……よし、いい感じだ」
俺はそうつぶやきつつ、両手を握り込んだ。
まだ不慣れな技だったが、これなら戦えそうである。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンが触手で攻撃してくる。
俺はそれを躱しつつ、反撃を叩き込んだ。
「【龍撃・神威】!!」
俺は闘気を纏った拳で、奴の巨体を殴りつけた。
「ゴオオォッ!?」
驚愕の声を上げるジャイアントクラーケン。
俺の拳がめり込んでいる。
俺は追撃を加えるべく、闘気を全開にしたまま連撃を叩き込む。
「おらあぁっ!!」
ガガガッ……!!
ドゴォンッ……!!!
「ゴオォッ!!」
俺の怒涛のラッシュに、ジャイアントクラーケンが苦しそうな声を上げた。
なかなかタフだが……。
まだまだこれからだ。
「【龍神脚】!!」
俺は、足に闘気を集中させる。
強烈な蹴りがジャイアントクラーケンを捉えた。
「ゴオオォッ……!?」
再び声を上げるジャイアントクラーケン。
少しばかり体勢が崩れた。
やはり、この形態は強力だな。
ここで畳み掛けるぞ!
「くらえっ! 【ドラゴニック・バースト】ぉおお!!!」
俺は闘気弾を放つ。
だが、ただの闘気弾じゃない。
奴の戦意を挫くまで何度でも心の強さで撃ち出し、決して諦めない。
ドラゴン級の闘気弾……ド闘気弾だ!!!
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンも、負けじと応戦してくる。
ド闘気弾と触手が激突し、お互いに相殺した。
「まだまだぁっ! 【ドラゴニック・バースト】ぉおおっ!!」
俺は再び技を発動。
ド闘気弾を連発する。
「ゴオオォッ!?」
ジャイアントクラーケンが驚愕の声を上げた。
触手では対応し切れず、何発か胴体や頭部に直撃させている。
やはり、触手よりも本体の方がダメージが通りやすいようだ。
人間でも、頭部や胴体を刃物で貫かれたら致命傷になるが、手足だったら何とかなったりするもんな。
「おおおおおぉっ!! 【ドラゴニック・バースト】ぉおおっ!!」
俺はさらにド闘気弾を連発する。
そろそろ限界が近い……。
まだ奴は倒れないのか?
そろそろ切り上げて船に合流するべきか……。
いや、ここまで奴にダメージを与えたからには、向こうもタダでは俺を帰してくれないだろう。
この勝負は、どちらかが倒れるまで続く。
そう確信していた。
だが、ここで奴が大きく動く。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンは俺目掛けて複数の触手を振る。
その一撃は、これまでで最も速く鋭いものだった。
「っ!? しまっ……!!」
ドガッ……!!
俺は触手の直撃を受けた。
そして、勢いよく跳ね飛ばされてしまったのだった。
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