ガロル村に来た翌日。
アイリス、モニカ、ニムは3人で行動する。
魔物狩り、ケガ人の治療、料理屋めぐりなどを行う予定だ。
俺とミティは、彼女たちとは別行動だ。
ミティの両親の作業を手伝う予定だ。
アイリスたちと別れ、ミティの家に向かう。
ダディとマティがいた。
朝から仕事に励んでいるようだ。
「おはようございます。ダディさん、マティさん」
「おはよう。お父さん、お母さん」
俺とミティで、あいさつをする。
「ああ、おはよう。2人とも、どうした?」
「私もお父さんたちの鍛治を手伝おうと思って」
「俺は何か雑用だけでも手伝えればと」
「ありがとう、2人とも。しかしミティ。気持ちはありがたいが、お前に鍛冶の才能は……」
ダディが暗い顔をする。
「いいから見ててよ」
論より証拠だ。
ミティが、鍛冶を披露する。
「む? ……お、おお! 見事だ……!」
ダディが目を見開き、驚いている。
「いつの間にできるようになったんだ?」
もっともな疑問だ。
村で散々練習してもできなかったことが、いつの間にできるようになったのか。
「タカシ様に拾われて、冒険者として活動するうちに、何かコツみたいなのを掴めたんだよ」
実際には、ステータス操作の恩恵だが。
正直に言うわけにはいかない。
「ううむ。そんなこともあるのか? 確かに、全然関係のない事柄が問題解決の糸口になることもあるだろうが」
ダディは納得したようなしていないような微妙な顔をしている。
「少し前に、あるところで鍛冶の施設を使わせてもらう機会がありまして。そこで実践してもらいました」
俺はそう説明する。
あるところとは、ハガ王国だ。
当時のミティは、鍛治術レベル3だった。
今は鍛治術レベル4。
鍛治の腕はさらに向上していることになる。
「タカシ様が持っている剣も、私が持っている槌も、私が打ったものだよ」
ミティはそう言って、アイテムバッグからハンマーを取り出す。
ドワーフの戦鎚だ。
「なんと! この見事な剣と槌は、ミティが打ったものだったのか!」
「すごいねえ。ミティはすごいよ」
ダディとマティが感心している。
これで、彼らのミティに対する評価は改まったことだろう。
ミティも満足そうだ。
その後、ミティとダディで鍛治の仕事をどんどん片付けていった。
マティは一部の鍛治の他、事務作業など。
俺は雑用だ。
4人で協力すれば、仕事が進むスピードも速い。
順調だ。
作業に集中する。
ふと、あたりが騒がしいことに気がついた。
何やら野次馬が集まってきているようだ。
「おい。見ろよ。バーへイルさんところの娘さんが帰ってきているぞ」
野次馬の1人がそう言う。
本来は俺たちには聞こえないぐらいの声量だ。
俺は聴覚強化レベル1のスキルを持っているので、聞き取れる。
ミティやダディたちには聞こえていないだろう。
バーへイルは、ミティのファミリーネーム(名字)だ。
ミティ=バーへイル。
ダディ=バーへイル。
マティ=バーへイル。
この3人家族だ。
「ミティちゃんだな。経済的に厳しくて、奴隷として売らざるを得なかったのだったか」
「そうだ。戻ってこれたみたいでよかった。ご両親は、ずっと仕事をがんばっていたもんな」
野次馬たちが、温かい目でミティたちを見ている。
「……ん? そういえば、ミティちゃんは、鍛冶ができないのではなかったか」
「そういえばそうだな。一時期、村長たちがそう喧伝していたな」
確かに、ミティはもともとは不器用で鍛冶ができなかった。
しかし、加護による恩恵により不器用さを克服した。
加えて、ステータス操作により鍛冶術をレベル4にまで強化している。
レベル4は、上級だ。
ドワーフの村とはいえ、ミティ以上の腕前の鍛冶師は数えるほどしかいないのではなかろうか。
「お、おい! 見ろ! あの見事な剣を」
ミティが先ほど新しく打った剣に、野次馬たちが注目する。
「む? おお! すごいな! ミティちゃんにワシの仕事場へ来てほしいくらいだ」
ミティの鍛冶の腕前は、やはりかなりのものであるようだ。
野次馬たちが感心している。
ミティやダディは、野次馬が集まっていることに気がついていない。
集中して作業をしている。
「ミティ。それにタカシくん。ちょっと手伝ってくれるか?」
「なに? お父さん」
「なんでしょうか?」
「この鉄塊を、向こうまで運ぶ。3人でならギリギリいけると思う」
ダディが鉄塊を指差し、そう言う。
ドッジボールよりも一回り大きいぐらいの鉄塊だ。
この大きさの鉄であれば、軽く100キログラム以上はあるだろう。
確かに、3人でなら持てるとは思う。
「よし。タカシくんはそっちを持ってくれ。ミティはこっちだ。指を詰めないように注意してくれよ」
「ちょっと待って。お父さん」
ミティがダディを制止する。
「なんだ? ミティ」
「これぐらいなら、私1人でも持てると思う」
ミティは怪力だ。
もともと腕力のステータスが高めだった。
そこに、加護の恩恵による基礎ステータスの向上。
さらに、腕力強化のスキルはレベル4まで強化している。
おまけに、闘気術による一時的な出力アップもできる。
「……1人では無理だと思うが。確かに、ミティは小さいころから力持ちだったけどな」
ダディはミティの言葉を信じられないようだ。
「いいから見ててよ。いくよ。……ふんっ!」
ミティが鉄塊を持ち上げる。
特に無理している様子はない。
普通に持ち上げている。
「なっ! ミティのこの小さな体のどこにそんな力が!?」
「す、すごいねえ」
ダディとマティが驚いている。
「マジかよ! ミティちゃん、とんでもない力だな!」
「すげえ! お前なら持ち上げられるか?」
「ムリムリ! 絶対にムリだ! 俺とお前の2人がかりでも厳しいだろう」
「確かにそうだろうな。鍛冶に怪力。ミティちゃん、とんでもなく成長して帰ってきたな」
「そうだな。ダディさんもうれしいだろうな。これは、将来有望だな。せがれを突っついてみるか」
野次馬たちも盛り上がっている。
ミティの鍛冶の腕前や怪力に感心しているようだ。
ミティがほめられるのは俺もうれしい。
しかし、彼女は俺の女だ。
やらんぞ。
ミティがそのまま鉄塊を運んでいく。
ダディに指示された場所に下ろした。
「よ、よし。ミティが鉄塊を運んでくれたおかげで、次の作業を進められる。ありがとう」
「いいよ。みんなでどんどん進めていこう」
気を取り直して、作業に戻る。
「タカシ様。作業を手伝ってくれてありがとうございますね」
「ああ、どういたしまして。ミティのご両親の仕事なら、俺の仕事といっても過言ではない。気にするな」
その後も、順調に作業を進めていく。
このペースなら、作業がひと段落する日も近そうだ。
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ミティやタカシたちが仕事に精を出している頃。
野次馬に紛れ、彼女たちを見つめる目があった。
「(ちっ。腕力だけでなく、鍛冶の才能まであったなんて!)」
カトレアだ。
カトレアが憎々しげにミティを見ていた。
「(憎たらしいやつ。このまま無事に帰すと思うなよ)」
カトレアはイライラした足取りで、立ち去っていった。
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