俺とリッカの戦いが佳境を迎えている。
こちらの攻撃は通じないし、逃亡も不可能。
こうなれば、可能な限り粘ってチャンスを伺うしかない。
「ただではやられんぞ……」
俺は何とか立ち上がり、リッカの追撃に備える。
先ほどのダメージも、『ハイ・リジェネレーション』によって回復している。
肉体的にはまだまだ戦闘可能だ。
「やれやれ……です。本当にしぶとい男ですね」
「ふん。簡単に負けるものか!」
「そうですか。それじゃあ仕方がないです。もう少し痛めつけさせてもらうです」
「なんだと?」
リッカの雰囲気がさらに変わる。
彼女の身体から聖気があふれ出す。
それは可視化するほどの濃度であり、思わず息苦しくなるほどだった。
「僕様ちゃんの真の力……その一端をお見せするです。さぁ、いくですよ」
リッカがレイピアを構え、こちらに向かって駆けてくる。
は、速い……!
「くそぉ!!」
俺は負けじと『紅剣アヴァロン』を振り下ろす。
リッカはその一撃を紙一重で回避し、そのまま俺の懐に飛び込んでくる。
「なっ!? ――ぐはぁっ!!」
リッカのレイピアが俺の腹を貫く。
その勢いのまま、俺の身体は後方へと吹き飛ばされた。
「タカシ様ぁ!!」
「タカシ!!」
ミティとアイリスの悲鳴が聞こえてくる。
まずい……。
このままでは……。
「ぐっ……。まだだ! この際、攻撃を捨てれば……」
俺は『紅剣アヴァロン』をアイテムルームに収納する。
破壊力抜群で魔物狩りに適した大剣だが、小回りのきく相手には使いにくい。
それが格上ならばなおさらだ。
ならば、素手の方がマシな可能性がある。
「剣なしで、僕様ちゃんのレイピアを防げるです?」
「くっ……」
リッカが高速で突っ込んできたかと思うと、超速でレイピアを繰り出してきた。
「――はあぁっ! 【絶対無敵装甲】!!」
俺は土魔法を発動させる。
これはまさに絶対無敵の鎧だ。
つい先ほどは、魔法陣から出てくるゴブリンジェネラルやミドルベアを容易く完封した。
「遅いです」
「ぐおっ!?」
やられた。
岩鎧が俺の体を覆う前に、リッカのレイピアが俺の肉体に到達する。
俺の残存MPが少ないため、発動にいつもより時間が掛かってしまったスキを突かれた感じだ。
自動治療魔法『ハイ・リジェネレーション』があるので、致命傷には至らないが……。
痛みにより、『絶対無敵装甲』の制御が乱れている。
次の攻撃は何とか防いで、態勢を立て直さないと……。
「次」
「くっ……」
「その次」
「がっ……!!」
リッカの連続突きが俺に襲い掛かる。
俺は必死に避けようとする。
しかし全てを防ぎきれるわけもなく、何発も攻撃を受けてしまう。
「まだまだです」
「ぐあっ……!!」
「この程度では終わらないです」
「うああ……!!」
俺は血まみれになって苦しむ。
回復も……硬化も間に合わねぇ……!
「タカシ様!」
「タカシ!」
ミティとアイリスの声が聞こえる。
リッカが何らかの拘束魔法を放ったようで、彼女たちの動きは封じられている。
だが、身体的に大きく傷つけられたりはしていない。
彼女たちが無事なことだけがせめてもの救いだ。
傷つくのは俺一人でいい。
「ふん」
「ぐっ……」
リッカのレイピアが、俺の首を貫いた。
ちょうど背後には岩があり、俺はそこに縫い留められる。
「ぐがっ……。うっ……」
「君の魔法技量は見事だったです。しかし……」
リッカはそこまで言うと、グイッと顔を寄せてきた。
端正な顔立ちが間近に迫る。
「君に魔法があるように、僕様ちゃんには聖なる力があるです」
彼女の瞳の中には、星が輝いていた。
キレイだ……。
これが神の力か……。
「――さて、タカシ=ハイブリッジ君。君はあと何回刺せば、死ぬですか?」
彼女は冷たい目つきで俺を見ながら、そう問いかけてきた。
俺は薄れゆく意識の中で考える。
どうすればこの状況を打開できる?
今のままでは、殺されるのを待つだけだ。
何か手を打たなければ……。
「ぐっ……がっ……」
俺は必死に身じろぎする。
首を刺されているのでまともに動けない。
治療魔法『ハイ・リジェネレーション』がなければ、普通に致命傷だ。
「おやおや、そんなに死にたいですか?」
彼女は微笑みながら一度レイピアを抜く。
そして、俺を刺し続けた。
何度も、何度も、執拗に。
「がっ……あ……!!」
俺は苦悶の声を上げる。
もはや回復が追いつかないレベルだ。
身体中から出血している。
「ふぅ……。もうそろそろ飽きたです」
リッカはそう言って、俺から離れる。
そしてレイピアを構えたまま、こちらを見下ろしていた。
「では、さよならです。僕様ちゃんのとっておきのナイフで、殺してあげるです」
リッカが懐からナイフを取り出す。
トドメ専用のものだろうか。
何やら妙な魔力を感じる。
「くっ……」
俺は地面に横たわり、動こうにも動くことができない。
身体中の感覚がなくなってきている。
「死ぬ……? 俺は死ぬのか……?」
「ええ。大人しくヤマト連邦に向かわなかった罪で、死ぬです」
リッカが無慈悲にそう告げる。
そうだ。
そもそも、彼女の要求は大したことじゃなかったじゃないか。
俺のミッションとも合致しているし、従っていればよかった。
「嫌だ……嫌だ!!」
「……」
「逝きたくない! 逝きたくないーー!!!」
「終わりです」
リッカがナイフを振り上げる。
そしてそれは、俺の胸に突き刺さった。
「ち、ちくしょう……」
俺の意識はそこで途切れたのだった。
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