「あ……」
紅葉が顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯く。
今の音は、彼女の空腹によるものだったらしい。
「ご、ごめんなさい」
「いや、気にしなくていい。もう昼時か」
俺はふと空を見上げた。
太陽はちょうど真上にあり、雲ひとつない青空に強烈な光を放っている。
肌を刺すような日差しが、時間の流れを改めて実感させた。
「幸い、ここは山の頂上だ。景色も素晴らしいし、昼食にするか」
「はい! そうしましょう」
紅葉はぱっと表情を明るくし、元気よく頷く。
その笑顔を見るだけで、先ほどの落胆が少しだけ和らぐ気がした。
俺たちは、山の頂上にあった大岩の上に腰を下ろし、昼食をとることにする。
岩肌は程よく温まっており、座ると心地よいぬくもりが伝わってきた。
風は爽やかで、遠く鳥のさえずりが響いている。
メニューは、俺のアイテムボックスに入れてあったおにぎりと漬物だ。
白米の香りがほのかに鼻をくすぐる。
「美味しいです!」
紅葉は目を輝かせながら、おにぎりにかぶりついていく。
その幸せそうな表情に、思わず俺も口元を緩めた。
「それは良かった」
俺もおにぎりを一口かじる。
ふんわりと握られた米の甘みが口の中に広がり、塩気の効いた漬物がいいアクセントになっている。
「あぁ……。それにしても、この景色は本当に素晴らしいですね」
「そうだな」
澄んだ空気が頬を撫でる。
紅葉が感嘆の声を上げたのも無理はない。
眼下に広がる景色は、まるで一幅の絵のようだった。
山々の稜線が緩やかに連なり、紅葉に彩られた木々が風に揺れる。
遠くには静かに流れる川のきらめきが見えた。
俺も、思わず息をのむ。
こんな美しい景色を、紅葉と共に眺められるのは幸運かもしれない。
「私、高志様に出会えて本当に良かったです。こうして、美味しいご飯が食べられるのも、高志様のおかげですから」
紅葉が柔らかく微笑む。
その頬は紅葉の色に負けないほどの温かみを帯びていた。
「大袈裟だな。俺は大したことをしていないぞ?」
「いいえ! そんなことはありません。本当に感謝しているのです。ありがとうございます」
澄んだ瞳が真っ直ぐ俺を見つめてくる。
その真剣な眼差しに、俺は少し戸惑った。
「そうか……。まぁ、どういたしましてだな」
気恥ずかしさをごまかすように視線を逸らしながら答える。
紅葉が俺を慕ってくれるのは嬉しい。
だが、こうも率直に感謝されると、どうにも落ち着かない。
「あ、紅葉」
「なんでしょうか?」
俺は彼女の顔をじっと見つめた。
「ちょっとじっとしてろ」
「え? ……えっ!?」
驚いたように目を見開く紅葉。
その表情が面白くて、俺は少し口元を緩める。
そして――
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