俺たちは、ディルム子爵に誘拐された仲間を救出した。
そして、無事にウォルフ村まで戻ってきて数週間が経過した。
今回の件でウェンティア王国やサザリアナ王国から多少の物言いがついた。
ウェンティア王国が文句を言ってくるのは、まぁ当然だろう。
先に手を出したのはディルム子爵側だとはいえ、やり返されて黙っているようでは国として舐められるからだ。
しかし、サザリアナ王国まで口出ししてくるとは少し予想外だった。
ウェンティア王国やウォルフ村に近い国家とはいえ、今回の件に直接は関係していないのに……。
何やら、俺たちの報復行為はやりすぎだとか主張しているらしい。
もちろん、俺たちがウェンティア王国やサザリアナ王国の言い分を聞き入れる道理はない。
彼らの主張は突っぱねた。
話し合う必要もない。
少数ながらも圧倒的な武力を持つ俺たちに、実力行使で言うことを聞かせるのは難しい。
高山の隠れ里と弓術の合わせ技は、かなり厄介なはずだ。
獣化の武技を使える戦士たちも、見通しの悪い山林では特に高い戦闘能力を誇る。
生半可な戦力では、今のウォルフ村を攻め落とすことはできない。
それでも、凄まじい大軍で攻められるとさすがにマズイのだが……。
ウェンティア王国やサザリアナ王国において、それぞれ他に問題が発生しているらしい。
俺たちへの追及は激しいものにはならなかった。
どんな問題が発生しているのか、あまり詳しくは知らない。
サザリアナ王国東部のラスターレイン伯爵領において、ファイアードラゴンが暴走して街を焦土と化したとか……。
南部のゾルフ砦が突破されて、住民や武闘家に多数の犠牲者が出たとか……。
南西部の大型盗掘団が盗賊団に方針転換して、ラーグを襲って暴れまわったとか……。
ウェンティア王国の竜人の里で暴動が発生したとか……。
いろいろな噂が錯綜している。
最後の方に来た『誓約の五騎士』を名乗る女騎士は、交渉次第で詳細を話してくれそうな感じだったが……。
俺は彼女からの交渉も突っぱねた。
他国の内情なんて、もはやどうでもいいのだ。
俺はウォルフ村の住民である。
何はともあれ、ウォルフ村の平和は確立された。
それでいいじゃないか。
「ふふん。落ち着いたし……そろそろアレをしないとね」
「あれ?」
「子作りよ、子作り!」
ユナがズイズイと近寄ってくる。
……近い。
顔が熱くなってきた。
「赤狼族の初夜の作法は伝えたわよね?」
「ええっと……。高い木に登って、そこで……するんだっけ?」
俺は顔を赤くしながら言う。
ユナが嬉しそうにうなずいた。
「そうよ。赤狼族の初夜はね、開放的な場所で行うのが習わしなのよ!」
「ちょっと恥ずかしくないか?」
俺はそう指摘する。
高い木の上で致すなんて、まるで露出狂みたいだ。
俺はそう思ったのだが、ユナは首を横に振った。
「どうして? 赤狼族の初夜はとても神聖な儀式なのよ。子どもを授かるためのお祈りみたいなものなの」
「うーん……」
「いいから、ヤルわよ! タカシだってもう赤狼族の一員なんだから!」
「お、おう……」
俺はユナに引っ張られる。
そうだ。
今の俺は、『タカシ=フェンガリオン』。
余所者の俺ではあるが、赤狼族の一員として認められたのだ。
その期待に応えねばなるまい。
「えへへ……。可愛い子どもを産むわ! 私、頑張っちゃうんだから!!」
「そ、それは楽しみだ……」
俺たちは森に入っていく。
そして、高い木に登り、そのまま初夜の儀式を行った。
俺は童貞なので上手くできるか分からなかったが……ユナには喜んでもらえたようだ。
こうして俺とユナは夫婦となり、子宝にも恵まれ、幸せな日々を送ったのだった。
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