「なんだ、あんたたちは? ――って、どう見ても桜花藩の侍か」
俺は言う。
彼らは全員、桜の家紋が入った鎧を身につけていた。
「いかにも! 我らは桜花藩が藩主――桜花景春(おうかかげはる)様の家臣なり!!」
「家臣の責務を果たさせてもらうぞ!」
侍たちが叫ぶ。
家臣の責務、か……。
おそらく、俺という侵入者への対応だろう。
これはマズイ。
油断していた。
ここはまだ城下町ではなく、桜花藩に数ある中規模な街の一つだ。
まさか、俺という侵入者がこれほど早く見つかるとは……。
「この街に治安を守るのも、我らの役目! おとなしく観念せよ!!」
「くっ……」
侍たちが俺たちを囲む。
最もヤバいのは、もちろん俺だろう。
鎖国制度を敷いているヤマト連邦への不法入国者なのだから。
もしかしたら、紅葉もマズイかもしれない。
山村から街へ勝手に出てきたのだ。
桜花藩にどのような法律があるかは分からないが……。
移動に関する何らかの制限に引っ掛かっている可能性はある。
「高志様……」
俺の不安を感じ取ったのか、紅葉が俺の手をぎゅっと握りしめる。
俺はそんな彼女の頭を撫でた。
「心配するな、紅葉。俺が必ず守る――って、あれ?」
「え?」
俺と紅葉は、思わず声を上げる。
俺たち囲んでいた侍たちが、突然駆け出したのだ。
「逃さんぞ、小僧!」
「年貢の納め時だ!!」
彼らの動きはなかなかに機敏だ。
見事に何者かを取り押さえた。
「ぐあっ!? ち、ちくしょう!!」
取り押さえられたのは、あのスリの少年――流華(るか)だった。
彼は彼で悪くない動きだったが、複数の侍から逃げられるほどではない。
「な、なにしやがる! 放しやがれ!!」
少年は暴れるが、多勢に無勢。
すぐに押さえ込まれる。
そんな流華を、一人の侍が怒鳴りつけた。
「この盗人めが! 桜花藩の治安を乱す不届き者よ!!」
「な、なんだと!? お、オレは……」
「言い訳は無用!! 我らの目を誤魔化せると思うたか! 既に手配書も回っておるのだ!」
「う……」
流華は言葉に詰まる。
どうやら、彼はスリの常習犯だったようだ。
俺よりも前から、何人もの人間から財布などを盗んできたらしい。
とりあえず、侍たちの目的が俺や紅葉の捕縛ではなくて良かった。
だが、俺は流華と多少の会話をした仲である。
つい先ほど、口だけかもしれないが『もうスリはやめる』とも約束した。
連行されるのをこのまま見ているのは、少し薄情な気もする。
「高志様」
「ん? ああ……」
そんなことを考えている俺に、紅葉が声をかけてくる。
細かな境遇は違えど、生活苦という点では紅葉と流華は同じ立場だ。
同情の気持ちもあるのだろう。
俺は彼女を安心させるべく、言った。
「俺に任せておけ。侍たちと話してみるよ」
俺は流華を取り押さえている侍たちの方へ向かう。
そして、代表格の男に話しかけた。
「なぁ、ちょっといいか?」
「うむ。こやつの取り押さえを無事に終えた今、我らとしても貴殿と少し話をせねばならぬと思っておったところだ」
「そうか。なら話が早いな」
俺は言う。
俺は、流華といっしょに団子を食べていたところだった。
ひょっとして、仲間とでも思われているのだろうか?
巻き添えで逮捕されるのは避けたいので、仲間扱いは御免蒙るが……。
少しばかり庇うくらいはしてやってもいい。
今までのことは知らないが、今後は俺が保護観察する――。
そのあたりが、落としどころだろう。
そんな心づもりで、俺は侍の言葉を待つ。
だが、彼は予想外のことを言ってきた。
「現行犯としても、こやつの罪状を追加しておきたい。貴殿らの会話は聞いておった。財布をスられたようだが……それで相違ないか?」
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