チンピラ集団『海神の怒り』と若手兵士集団『海神の憤怒』。
俺は、彼が仕掛けてきた無理難題を乗り切った。
もっとも、無理難題というのは彼ら視点での話だ。
俺にとって、『海ぶどうのサラダ』や『タコの足焼き』は余裕で食べられる美味しい料理である。
「いやぁ、共に食事を楽しむのも悪くはないな!!」
俺はそう言って、海ぶどうを食べる。
男たちは、俺の反応を見て困惑していた。
しかし、何らかの実力行使に出る様子はない。
「な、なんなんだ……お前は……?」
「人族の分際で、どうして……」
彼らは口々に言う。
そんな彼らに対して、俺は言った。
「人族がどうとか、人魚族がどうとか、もうそんな次元は超えたんだ。これからは共に手を取り合って、生きていこうじゃないか!!」
俺は力強く言う。
もちろん、種族固有の文化などを守っていくことは大事だ。
俺は、そこに無闇に介入するつもりはない。
しかしそれはそれとして、歩み寄れるところは歩み寄った方が共に繁栄できる。
「『海ぶどうのサラダ』も『タコの足焼き』も美味しいぞ!! それに、他の料理だってたくさんある! ほら、お前たちも食べてみるといい!!」
そう言って、俺は彼らに料理を差し出す。
――言っておくが、俺は聖人君子ではない。
自分に敵対的な者にへりくだったりはしないし、愛する女性や仲間を傷つけるなら排除する覚悟はある。
そんな俺が、このチンピラや下級兵士たちに友好的な理由は何か?
それは、彼らの忠義度に改善の兆しがあるからである。
「……ちっ。仕方ねぇな……」
「おい、お前ら。せっかくだ。食べようぜ!」
「そうだ。人族の言葉に従うのは癪だが……これほどの料理を食べずに帰るのはもったいない」
男の一人が言うと、他の男たちも同調する。
俺と親しくする気はない一方で、武力を用いた敵対関係になるつもりもないらしい。
クーデターが失敗した上、旗印のエリオットが正気に戻ったことで、彼らの組織としての力は落ちている。
ここで俺を排除しても得るものはない。
そんな計算も働いているのだろう。
「ふん……。人族は嫌いだが、お前だけは認めてやらんでもない」
「ああ、俺もだ。話で聞いていた人族とは違う」
「だがよ、地上と交友関係を結ぶのは話が別だぜ? そのときには、また改めて判断させてもらう」
彼らは口々に言う。
少しばかり好意的な発言から、相変わらず敵対的な発言まで……。
反応は様々だ。
彼らは第一王子エリオットの後ろ盾を持つ。
半ば形式的な後ろ盾とはいえ、一定程度の影響力は持つだろう。
俺がヤマト連邦の件を片付けたら、いずれ人魚族と正式な交友関係を持つこともあるはず。
そのときには、メルティーネたち王族や一般民衆だけでなく、彼らのような下級兵士やチンピラたちの支持を得ることが大切になってくる。
切り捨てていい存在ではない。
「ふっ……。それでいいさ」
俺としても、いきなり全てを変えるつもりはない。
最悪なのは、もてはやされて調子に乗った俺の融和政策がドンドン進められ、結果的に人族と人魚族の溝が深まってしまうこと。
適度な反抗勢力は、むしろいてくれた方が助かるぐらいである。
(彼らの忠義度も……20前後くらいにはなっているな。高い奴は、忠義度30を超えている奴もいる)
俺は彼らと食事を楽しみながら、そう整理する。
人魚の里の内部での平和のみを考えるなら、チンピラや下級兵士が強化されることにはリスクもあるが……。
里の外部からの魔物襲撃なども考慮するのであれば、総合的にはメリットの方が上回る。
俺という異分子がいなくなる今後、彼らは里のために戦う頼もしい兵士となってくれるだろう。
「さて、そろそろ王族たちに挨拶を……ん?」
俺は気付く。
すぐそばで、俺をまぶしそうに見つめる視線があることに。
その視線の主は……。
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