クラーケンを討伐して一息ついていた俺たち。
スキルポイントが20も入ったし、また強くなることができる。
クラーケンの魔石も何かの役に立ちそうだ。
俺がそんなことを考えていたとき、不意に船が揺れた。
さらには、周囲が暗転する。
「これは……!? なにがあった!?」
「タカシ様! あれを!!」
ミティが上空を指さす。
そこには、大きな影があった。
リトルクラーケンはもちろん、クラーケンよりもさらに巨大な何かの影だ。
「ゴオオオォ……」
まるで地鳴りのような重低音が、周囲に響く。
「なんだ……!? あれは!?」
俺は思わず叫ぶ。
巨大な黒い影の一部が、船に向かって落下してくる!
「マリアに任せてっ! 【ゼログラビティ】!!」
マリアが魔法を唱えた。
巨大な何かの落下速度が落ちる。
「【ミティ・ホームラン】!!」
続けてミティが、落ちてくる何かをハンマーでかっ飛ばした。
ドゴーン!
バシャーン!!!
鈍い音が響き、何かの軌道が逸れて海を叩いた。
そしてようやく、俺はその巨大な影の正体を知った。
「あれは……まさかジャイアントクラーケン!?」
それは巨大なイカの魔物だった。
クラーケンよりもさらに大きな体を持つ、化け物のような巨大イカだ。
クラーケンですら、体長50メートルを超えるとんでもない巨体だった。
ジャイアントクラーケンの全長は、もはやまともに推測することすらできない。
あまりの巨体のために日光が遮られ、目が慣れるまでは影のようにしか見えなかった感じだ。
さっき落ちてきた何かは、ジャイアントクラーケンの触手の1本。
ただ適当に振り下ろされたようにも見えたが、あれが直撃していたら船が木っ端みじんになっていたことだろう。
マリアとミティの連携プレイに感謝だ。
「ジャイアントクラーケン……! まさかそんな……」
「数百年に一度しか姿を現さないと言われる、伝承上の存在ですわ……」
サリエとリーゼロッテが、そうつぶやく。
確かに、神話の怪物とでも呼べそうな存在に思える。
「あ……あ……」
「ひっ……」
「……う、うぅ……」
レイン、月、雪がパニックを起こしている。
無理もない。
いきなり目の前に伝説の怪物が現れたようなものだからな。
しかし、俺は妙に落ち着いていた。
俺は1人、ジャイアントクラーケンをにらみつける。
「タカシ、あれと戦うつもり……?」
ユナが問いかけてきた。
その瞳は、不安そうだ。
だが、俺は動じない。
なぜなら――
「いや、そんなつもりはない」
俺はユナにそう答えた。
これほどの巨体に勝てるわけがない。
さっきのクラーケン戦は、総力戦だった。
俺。
ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華、レイン。
ティーナ、ドラちゃん、ゆーちゃん。
そして、雪月花。
合計で17人の力を合わせて、それでもクラーケン相手にギリギリだった。
ジャイアントクラーケンなどと戦えば、俺たちは全滅するしかないだろう。
もはや人がどうこうするというレベルを完全に超えている。
無理無茶無謀だ。
先ほど手に入ったスキルポイント20の使い方次第ではワンチャンあるかもだが……。
ジャイアントクラーケン戦に向けた上手い使い道を相談している暇はない。
そもそも、クラーケン戦で俺たちは消耗している。
やはり、勝つのは不可能と言っていい。
「逃げるよ! 全速力で!! みんな掴まって!!!」
アイリスが叫ぶ。
彼女は操舵輪を握ると、船を急旋回させた。
ジャイアントクラーケンに気をつけながら、全速力でその場を離れる。
「ゴオオオオォ……」
ジャイアントクラーケンは大きな声を上げる。
そして、こちらに向けてゆっくりと移動を始めた。
「あの速度なら、追いつかれることはなさそうか……。いや、違う!」
俺、いや俺たちは気付いた。
ジャイアントクラーケンの動きは遅いが、ドンドン加速している。
あまりの巨体ゆえに、初速が遅いだけのようだ。
このままでは、いずれ追いつかれる!
「ガアアアァァァ!!」
ジャイアントクラーケンが大きく口を開く。
そして、そこから水流を吐き出した。
海水がまるでレーザーのように、船に向けて襲い来る。
「くっ……!」
「マリアに任せてっ!」
ハーピィのマリアが船を守るように、前に躍り出た。
「【風翼防盾】っ!!」
マリアが羽を広げる。
そして、ジャイアントクラーケンの水流を受け止めた。
「がふっ!!」
マリアは体を水流によって貫かれ、吐血した。
そのおかげで水流の威力は減衰し、船へのダメージは免れたようだ。
しかし、マリアが代わりに大ダメージを受けてしまった。
「マ、マリア!?」
「――だいじょうぶ! マリア、ふっかーつ!!!」
マリアが元気そうに叫ぶ。
彼女は『HP強化』『痛覚軽減』『HP回復速度強化』『自己治癒力強化』『治療魔法』などのスキルを伸ばしており、その回復力は耐久性はずば抜けている。
高威力の遠距離攻撃を受けた程度で、彼女は死なない。
「マリアのおかげで助かった。ありがとう。だが、このままでは追いつかれるな……」
俺、いや俺たちは船の上から後方を見る。
ジャイアントクラーケンはまだまだ加速している。
その巨体ゆえに初速こそ遅かったが、このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。
「……仕方ない。これしか、なさそうだ」
俺は覚悟を決める。
そして、船べりに立ったのだった。
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