「……はっ! せぇい!!」
桔梗が気合と共に、夜叉丸に攻撃を仕掛ける。
彼女は武神流師範の孫娘だ。
幼少の頃より、しっかりとした指導を受けている。
剣術のセンスは抜群だ。
「いい動きだが、まだまだ甘い――」
夜叉丸が呟く。
彼は桔梗の斬撃を、金属製の扇で見事に受け流していた。
「その程度では、桜花七侍の俺を打ち破ることはできないぞ――」
「くっ……!!」
桔梗は、タカシから与えられた加護(小)により強化されている。
身体能力などのステータスが2割向上した他、剣術スキルもレベル3からレベル4に上がっている。
だが、それでも夜叉丸は倒せない。
いくら新任とはいえ、桜花七侍の名に恥じぬ実力者ということだろう。
「まだやるのか――? あまり手荒な真似はしたくないのだが――」
「手加減はいらない。全力で来て……!!」
「そうか――。では、そうさせてもらう――」
夜叉丸が扇を構える。
そして、彼は目にも止まらぬ速度で桔梗に攻撃を仕掛けた。
「はぁああああ――!」
「くぅうううう!!」
激しい戦闘音が響く。
2人は互いに一歩も引かず、道場の床を踏みしめる。
「ふぅ――。やはり、剣さばきは上々だな――」
夜叉丸が呟く。
彼の扇には、桔梗の刀による攻撃で小さな傷がついている。
だが、それだけだ。
桔梗の攻撃は、夜叉丸の肉体には一切届いていない。
「まだまだ……!」
桔梗が荒い息で呟く。
その表情には疲れが見えている。
いかに加護によって身体能力などが向上しているとはいえ、彼女には肉体的な限界がある。
一方の夜叉丸は涼しい顔だ。
「お前の基礎はしっかりしている――。しかし、逆に言えば基礎だけだ――。実戦向けではない――」
「くっ……!」
夜叉丸が攻撃を再開する。
桔梗はなんとか彼の攻撃を凌ぎ続けるも、徐々にその勢いに押されていく。
そして……
「きゃっ!?」
ついに、桔梗は体勢を崩した。
夜叉丸の一撃が彼女の顔のすぐ横を通り過ぎ、道場の壁に激突する。
壁に穴が開くほどの威力だ。
「もう降参しろ――。搦め手のない愚直な武神流の剣では――、俺のような格上には絶対に勝てないぞ――」
「降参なんて……。私は……!!」
桔梗は刀を構え直す。
その体からは、魔力があふれ出ている。
「なんだ、その力は――? 妖力とは少し違う――?」
「説明するより、その身で味わうといい……! 【えんぷふぃんとりひ・ゆんぐふらう】!!」
桔梗が叫ぶ。
すると、その全身が薄っすらと光り始めた。
「こ、これは――!? 異国の力か――!!」
「私の力、その身に刻んで……」
「ぐっ――!?」
桔梗の斬撃が夜叉丸に襲い掛かる。
未知の技に対する警戒もあり、彼は一時的に防戦一方となる。
だが……。
「驚かせやがって――。威力も速度も、大して変わっていないじゃないか――」
「それはどうか……な?」
「なに――?」
夜叉丸の言葉に、桔梗がにやりと笑う。
次の瞬間、夜叉丸は相手の攻撃に違和感を覚えた。
「馬鹿な――!? この俺の動きを先読みしている――?」
「これが、高志くんに教えてもらった新たな力……! 先読みの力があれば、武神流の剣術はさらに活きる……!!」
夜叉丸の動きに先んじて、桔梗が斬撃を繰り出す。
彼の扇による防御は、徐々に間に合わなくなってくる。
「くっ――! この俺が――!!」
「はぁあああ!! 武神流奥義【八岐之大蛇(やまたのおろち)】!!」
桔梗の刀が夜叉丸を襲う。
的確に繰り出された七連撃は、夜叉丸の体を袈裟斬りに切り裂く。
そして最後、全身の体重を乗せた一撃が夜叉丸の腹部に炸裂した。
「ぐふぅっ――!?」
夜叉丸が吹き飛ばされる。
彼はそのまま武神流道場の壁を突き破り、外まで放り出された。
「はぁ……はぁ……。やった……!」
桔梗が息を切らせる。
額から大量の汗が流れ落ちるも、その表情は晴れやかだ。
「でも、喜んでいる暇はない。流華ちゃんと紅葉ちゃんを助けに行かないと……。……えっ!?」
桔梗は周囲を見渡す。
見慣れたはずの、武神流道場敷地内の中庭。
そこには、想定していなかった光景が広がっていたのだった。
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