数日が経過した。
いよいよ、今日は食事会の日だ。
食事会の参加者は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
さらに、ユナ、リーゼロッテ、マリアだ。
合計8人となる。
以前ラビット亭で開いた食事会よりも規模は小さい。
それでも、8人もいればにぎやかなものとなるだろう。
準備も念入りに必要だ。
料理はモニカがメインで準備してくれている。
俺、ミティ、アイリス、ニムは、彼女の手伝いをしたり、机やイスのセッティングなどを行っている。
「モニカ。準備は順調か?」
「うん。順調だよー」
「他に手伝うことはないか?」
「だいじょうぶだよー。おいしい魚料理を楽しみにしていてね。マヨネーズを活かした魚料理だよ」
それは楽しみだ。
メインディッシュは魚料理。
その他、サラダやデザートなども用意されている。
マヨネーズづくりには、かき混ぜる工程がある。
それなりの力仕事だ。
「はああああ!」
ミティが全力でマヨネーズをかきまわしている。
マヨネーズづくりは彼女に任せておけば問題なさそうか。
「ア、アップルパイの準備ができたよ。モニカお姉ちゃん」
「わかった。ありがとう、ニムちゃん」
ニムはアップルパイづくりを手伝っている。
材料はもちろん、彼女の畑で採れたリンゴだ。
トントントントン。
包丁で何かを切る音が聞こえてくる。
アイリスだ。
アイリスが野菜を切っている。
「モニカ。サラダの用意もできたよ」
「ありがとう、アイリス」
うん。
みんなで協力して準備を進めている。
いいことだ。
問題は、俺が少し手持ち無沙汰なことだ。
何か俺にできることは……。
「タカシ。そろそろマリアちゃんを迎えに行ったら?」
アイリスがそう言う。
「そうだな。少し早いが、迎えに行っておくか」
マリアの迎えには転移魔法陣を使用する。
MPの消費が大きいため、疲れる。
早めに済ませておきたいのは確かだ。
キッチンを出て、転移魔法陣のある部屋に移動する。
詠唱を開始する。
「……テレポート」
視界が切り替わる。
無事に転移できた。
ハガ王国の王宮の隅の一室である。
バルダインには転移魔法陣のことは相談済みだ。
だが、見回りの一兵士には情報を公開していない。
無闇に情報を広めすぎるのは、メリットよりもデメリットのほうが大きそうだからな。
見回りの兵士に気付かれないように、王宮の外に出る。
配察知レベル2と気配隠匿レベル1のスキルがあるから難易度は高くない。
改めて、王宮の正面から訪ねる。
門番に話しかける。
「こんにちは。タカシです。陛下に取り次いでいただけますか? 本日伺うという連絡はしています」
『これはこれは。タカシ殿。話は伺っております。すぐに取り次ぎ致します』
門番が王宮内のオーガに連絡している。
少しだけ待つ。
『では、こちらに付いてきてください』
案内係のオーガとともに、王宮内に入る。
しばらく進む。
『こちらの部屋にてお待ちください』
案内された部屋に入る。
5日前にバルダインと話したときに使った部屋だ。
イスに座り、少し待つ。
しばらくして、見知った面々が部屋に入ってきた。
マリアだ。
バルダインとナスタシアもいっしょだ。
俺は立ち上がり、彼らを迎える。
「こんにちは。陛下、ナスタシア様、それにマリア」
『待たせたな。タカシ』
『やっほー。タカシお兄ちゃん!』
マリアは元気いっぱいだ。
彼女は少し大きめの服を着ている。
腕や足が隠れている。
頭にはフード。
これなら、一目ではハーピィだとはわからない。
メインは俺の自宅での食事会だが、少しは街も見て回る予定だからな。
『マリアには意思疎通の魔道具を持たせている。魔道具ランクAのものだ。言葉で困ることはないだろう』
「わかりました」
意思疎通の魔導具。
潜入作戦のときに、俺もランクBのものをアドルフの兄貴からお借りした。
まあ俺の場合は、異世界言語のスキルがあるから特に必要ではなかったが。
魔道具ランクAのものをマリアが持っていくのであれば、バルダインの言う通り、言葉で困ることはないだろう。
『娘のことをよろしくお願いしますね』
「ええ。任せてください」
マリアを連れて、転移魔法陣のある部屋に移動する。
マリアと手を繋ぐ。
人といっしょに転移するには、手を繋ぐ必要がある。
もしくは、おんぶや抱っこなどでも可能だ。
このあたりは実験済みだ。
転移魔法の詠唱を開始する。
「……テレポート」
視界が切り替わる。
無事に転移できた。
ラーグの街の自宅の一室である。
『へー! すごいね。もう人族の街に来たの?』
「そうだ。明日、見て回ろうな。今日は家でご飯を食べよう」
『わかった!』
マリアを連れてリビングに向かう。
既にユナとリーゼロッテも来ていた。
参加者は、これで全員そろったことになる。
「きゃー。かわいい。なにこの子」
マリアを見て、ユナが歓声を上げる。
「マリアだ。少し縁のあった子でな」
『マリアだよ! よろしくね!』
「こちらこそよろしく! 私はユナよ」
マリアの持つ意思疎通の魔道具は、問題なく効力を発揮しているようだ。
ユナと普通に会話できている。
マリアが、ミティ、アイリス、モニカ、リーゼロッテともあいさつを交わす。
……ん?
ニムがマリアをじっと見つめている。
何か気になることがあったのか?
「わ、わたしはニムです。マリアちゃん。何歳ですか?」
『えっとねー。8つだよ!』
「じゃ、じゃあ、わたしがお姉ちゃんですね。ニムお姉ちゃんと呼んでください」
確かに、ニムのほうが2歳ぐらい年上だ。
俺たちのパーティではニムが一番年下だ。
また、彼女には兄はいるが弟や妹はいない。
より年下のマリアがいて、うれしいのだろう。
『ニムお姉ちゃん!』
「マリアちゃん!」
『ニムお姉ちゃん!』
「マリアちゃん!」
お互いに名前を呼び合っている。
マリアにも姉はいない。
お姉ちゃんができて、うれしそうだ。
ほほえましい光景を眺めつつ、食事会の最後の準備を進めていく。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!