ゾルフ砦に到着した翌日は、軽く狩りをして残りは休みとした。
俺は元気だが、ミティの負担が心配だからだ。
まあミティも体力強化のスキルを取得したし、心配ないかもしれないが。
そして今日は武闘会の日。
武闘会の会場までやってきた。
「おお……。これはすごいな」
「すごく……大きいですね」
立派な会場だ。
いわゆるコロシアムみたいな形状をしている。
この世界は、建築技術もなかなかのようだ。
この街にはコロシアムがいくつかある。
今回の武闘会が開催されるコロシアムは、少し小さめらしい。
これでも十分に大きいと感じるが。
コロシアム前の人混みに並ぶ。
入場待ちだ。
待っている間は暇だ。
ミティと雑談しつつ辺りを見ていると、見覚えのある巨漢が視界に入った。
選手側の入り口に向かって歩いている。
「ミティ。あそこにギルバートさんがいるね」
「本当ですね。まわりにパーティメンバーも揃ってます。武闘会に参加されるのでしょうか?」
「選手側の入り口に向かっているし、たぶんそうだろうね」
ギルバートがこちらを見たので、軽く手を振って挨拶しておく。
こちらに気づいたようだ。
ドカドカと足早にこちらに向かってきた。
「よお! 護衛依頼でいっしょだったやつだな! 名前は……タケシだったか!?」
惜しい。
正確な名前を覚えられていなかったようだ。
まあ顔を覚えてもらえているだけマシか。
名前を間違えるのは結構失礼なことだと思うが、こう勢いよく間違えられると、不思議と不快感は感じなかった。
「ギルバートさん、こんにちは。私はタカシです。こちらはミティ」
ミティが軽く会釈をする。
「タカシとミティか! お前たちも武闘会に出るのか!? 負けんぞ!」
ギルバートが握り拳をつくり、威嚇してくる。
「いえ、私たちは観戦にきました」
「なんだ、出ないのか!」
「武術の経験もありませんので」
「お前たちの得物は、たしか剣とハンマーだったな! お前たちの身のこなしと力なら、未経験でも予選ぐらいは突破できたかもしれんぞ!」
「ありがとうございます」
ギルバートの見ている前で魔物と戦った記憶はあまりないが……。
さりげなくチェックされていたようだ。
「その様子だと、闘気術は使えないのか!?」
「闘気術? 使えませんね。ミティは使えるか?」
俺はそもそも聞いたこともないのだが。
「私も使えませんね。確か、闘気とやらを拳や体にまとって、打撃力や肉体強度を向上させる技術ですよね。村で使い手を数人見たことがあります」
「その通りだ! 剣士や槌士でも、闘気術を使えるにこしたことはない! Bランク以上の冒険者なら、職種に関係なくほとんどのやつが使えるぞ!」
へえ。
そんな有用そうな術があるのか。
スキルポイントで取得できるスキルには見当たらなかったが。
覚えてみる価値はありそうだ。
「それは役立ちそうですね」
「我らの師匠がひらいている道場がこの街にある! 友人紹介キャンペーンで少し安く教えてもらえるぞ! 今回の武闘会が終われば、我らもしばらく顔を出す予定だ!」
「なるほど。後日伺ってみます」
ギルバートから友人紹介キャンペーンのチラシを受け取る。
場所や費用の目安などが書いてある。
後で目を通しておこう。
「ギルバートさんたちはこの大会に出場されるのですよね。ご健闘を祈っています」
「うむ! この大会では優勝を目指す! その勢いで、ガルハード杯でマクセルのやつにも一矢報いてやる!」
彼はそう言って足早に会場へ入っていった。
マクセルとはだれだろう。
ギルバートのパーティメンバーにはそんな名前の人はいなかったはずだ。
話の流れから推測すると、ギルバートのライバルといったところか。
それも彼より格上の。
Cランクのギルバートより強いのなら、単純に考えてBランク相当といったところか。
ぜひ戦闘を見て、参考にしたいところだ。
●●●
コロシアム会場に入り、座席に座る。
日本でプロ野球観戦にきたような気分だ。
さすがに日本の球場と比べると、かなりせまいが。
それでも最大で2000人ぐらいは入れそうだ。
半分以上の席がうまっている。
コロシアムの中央付近に、ステージがある。
あそこで闘うようだ。
入り口でもらったパンフレットを見る。
簡単なルール説明や武闘会の今後のスケジュールなど、いろいろな情報が書いてあった。
どうやら今回の武闘会は、この街でひらかれる武闘会の中ではやや規模が小さいようだ。
最大規模の大会が4年に1回。
夏に開催される。
これはハルトマンが言っていたやつだな。
今更だが、この世界の暦は地球とほぼ同じ感じだ。
今日は1001年の5月12日。
逆算してみると、俺がこの世界にきたのは4月1日になる。
かなりきりのいい年月日だ。
何か人為的なものを感じる。
もしくは神の仕業か。
最大規模の大会が4年に1回で夏開催、中規模の大会が年に1回で6月開催、その他小規模の大会が散発的に開催される。
最大規模の大会はゾルフ杯、中規模の大会はガルハード杯と呼ばれている。
今回のような小規模の大会へは、実績のない俺みたいなやつでも飛び入りで参加できる。
参加費は必要だが、予選を突破すれば参加費を返却されるし、上位に入賞すれば賞金も少し出る。
小規模の大会での実績のほか、各道場からの推薦、軍や冒険者ギルドなどの組織からの推薦、他地域での武闘会などでの実績などを総合的に考慮して、最大規模のゾルフ杯や中規模のガルハード杯への参加資格が与えられる。
実績や推薦なくてもゾルフ杯やガルハード杯に出場する道はある。
予選を勝ち抜くことだ。
ただし、予選から本戦に出場するまでの倍率は例年10倍以上。
狭き門だ。
ゾルフ杯やガルハード杯で好成績を残せば、4年に1度王都で開催される御前試合への参加資格を得ることができる。
ただし、この御前試合は武器や魔法の使用もありの無差別級だ。
純粋な武闘大会としては、ゾルフ杯がこのあたりでは最高峰の大会となっている。
パンフレットを一通り見終わった。
「ふーん。いろんな大会があるみたいだね」
「そうですね。私も小さめの大会なら、あるいは……」
ミティは興味津々のようだ。
そうこうしているうちに、第一試合が始まった。
うーん。
ぱっと見は、それほどレベルは高くない。
まだ1回戦だしな。
すでに十分な実績のある人はこの小規模な大会にはあまり出ないのだろうか。
冒険者には武闘メインの人は少ないので比較はしにくいが、身のこなしや雰囲気でいえば、Dランクぐらいかな。
今闘っている人と比べると、Cランクのギルバートのほうが格上と感じる。
第二試合、第三試合と続けて観戦する。
ギルバートのパーティメンバーの人も出てきた。
実力はDランク上位といったところか。
同じくDランクのビリーやハルトマンよりはなんとなく強そうだ。
まあ実戦だと拳と剣の比較になるから、ビリーやハルトマンが勝つかもしれんが。
さらに観戦を続ける。
ギルバートが出てきた。
ムキムキだ。
対戦相手もそれなりにガタイはよいが、ギルバートのほうがなんとなく強そうな雰囲気がある。
まあ闘気術というものがあるぐらいだし、あまりガタイだけで戦闘力は判断できないか。
ミティも、細い腕からとんでもない力を発揮するしな。
「ぬん! くらえぃ!」
ギルバートが正拳を繰り出す。
「なんのぉ!」
相手がそれをガードする。
激しい肉弾戦だ。
数分の戦闘のあと、ギルバートが勝利した。
身体能力と格闘技術の両方で勝っていたようだから、順当勝ちといったところか。
その後も観戦を続ける。
ギルバートは順調に勝ち進んでいった。
2回戦、3回戦と人数が絞られるにつれて、人間離れした動きをする選手が増えてきている。
なかなかレベルが高い。
いよいよ、次は決勝戦だ。
今までの試合を見た感じだと、対戦相手はギルバートとほぼ同格だ。
対戦相手はジルガという大男。
ギルバートと同じようなムキムキのおっさんである。
この2人による決勝戦は、見どころがありそうだ。
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