「言い逃れはできん。お前は処刑だ。その首を晒すことで、お前の罪を償うがいい」
「ま、待て! 余は無実なのだ!」
景春が叫ぶ。
四肢を拘束され目隠しまでされている景春に残された手段は、言葉による説得のみだ。
だが、桜花七侍の面々が動くことはない。
既に根回しは済んでいる。
強いて言えば、やはり樹影が怪しいか。
あまり無駄なことをしている余裕はない。
さっさと進めてしまおう。
俺は腰の鞘から刀を抜き、景春の首筋に添えた。
「ほら、この感触が分かるか? 俺の愛刀で、お前の首を刎ねてやる」
「ひ……っ! い、いや……」
景春が引きつった声を漏らす。
彼の首筋には、俺の愛刀が触れている。
そのヒンヤリとした感触が、彼の恐怖心を煽っていることだろう。
「う、嘘だろう? 甘い男の貴様がこんなこと……。それに、叔母上が余を見捨てるなど……」
「……」
「そ、そうだ、これは夢で……。起きたらきっと、父君も壮健のままで……昔のように豊かな桜花藩があるんだ……。家族みんなで楽しく朝ご飯を食べて……それから……」
「残念だったな、これは夢じゃない、現実だ。お前はこれから死ぬのさ」
「う……あ……」
景春は言葉にならない声を漏らしている。
もう恐怖心は限界だろう。
目隠し越しにも号泣しているのが見て取れる。
拘束された手足は、大いに震えていた。
戦闘時にはそこそこ勇敢だった景春だが、処刑されるとなるとやはり話は別だな。
ゆっくりとだが確実に近づいてくる、自らの死。
そんな状況下で気丈に振る舞える者など、大人でもそうそういないだろう。
まして、景春は10代中盤だ。
こんな醜態を晒すのも無理はない。
「さぁ、最後に言い残すことはあるか?」
「……た、助け……。死にたくない……っ」
景春がはっきりと告げた。
やはり、明らかにもう限界だ。
最後のひと押しといこう。
俺は刀を振り上げる。
景春にも聞こえるよう、あえて大きな音を立てて……。
「では、さらばだ」
「ま、待て! 待ってください!!」
「待たない」
「嫌だ! 死にたくない……! 余は……私は……あたしは!! 死にたくないっ!! 誰か、誰か助けてぇえええっ!!」
景春が泣き叫ぶ。
その声を聞いて、俺は刀を止めたのだった。
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