エレナたち『三日月の舞』が砂浜から立ち去ろうとしている。
その前に、エレナからダダダ団に関する情報提供があった。
俺も戦闘中に薄っすら感じていたことだが、彼らは闇の瘴気に侵されていたらしい。
「下っ端共の瘴気は無事に浄化されたらしいわ。さっき、街で見掛けたもの」
「え……。では、無罪放免ですか?」
「社会奉仕活動をやっていたわね。街の掃除とか、犬を引き連れて街の警備とか……」
……犬?
なぜ犬なんだ?
俺は首を傾げるが、エレナは構わず言葉を続けた。
「でも、幹部や頭領の浄化には手こずっているみたい。しばらくは様子を見るそうよ」
「そうですか……。まぁ、それが妥当な判断でしょう」
下っ端のチンピラぐらいなら、社会奉仕活動をさせるために一時的に解放しても問題ないだろう。
魔道具や武器の類さえ取り上げていれば、また暴れ出してもそこらの衛兵でも無力化できるはずだし……。
しかし、幹部ヨゼフと頭領リオンは別だ。
あの2人を野放しにしておくのは非常にマズイ。
ちゃんと罪を償わせるか、しっかりと浄化してから解放してもらいたいところだ。
「情報提供、感謝します」
「あんたも変態とはいえ、冒険者の端くれでしょ! これぐらい、知っておきなさいよね!!」
「ええ。仰るとおりで……」
「ふんっ!」
エレナはプンスカしながら去って行った。
ルリイやテナもついていった。
俺は彼女たちの背中を見ながら、小さく溜息をつく。
結局、エレナは最後まで俺のことを変態呼ばわりしていたな……。
「にゃにゃっ! 1つ忘れていましたにゃ!!」
「え?」
「待っていてくださいにゃ! お客様のために、にゃぁが一肌脱ぎますにゃ!!」
サーニャちゃんは俺にそう告げると、エレナたちの後を追いかけていった。
彼女は何をするつもりなんだろう?
「――ッ!!」
「!? ――――!!!」
エレナたちに追いついた彼女は、何やらエレナと激しく口論を始めた。
いざとなれば、Cランクのエレナが優位だろう。
俺はそう思った。
だが、エレナが実力行使に出ることはなかったようだ。
サーニャちゃんが勝ち誇った顔で、何かを彼女から受け取ってこちらに戻ってきた。
「にゃにゃんにゃーん」
……何だろう。
彼女の様子がおかしい。
まるで、浮かれた猫のようにご機嫌だ。
「……どうしたんです?」
「ふふふ。これを見れば分かりますにゃ」
彼女は得意げな表情で何かを差し出してくる。
俺はそれを広げる。
それは――女物のパンツだった。
「うおおっ!? こ、これは……!」
「にゃはは。エレナさんのパンティですにゃ。お客様のために、もらってきたのですにゃ」
「お、俺のために……? よ、よく彼女が了承しましたね……」
エレナは今、水着姿だ。
手荷物に着替えのパンツを入れてあったのは理解できる。
しかし、同性のサーニャちゃん相手とはいえ、自分のパンツを渡すのはどう考えても不自然だ。
「渋っていましたけどにゃ。さっきのビーチバレーボール大会は、にゃぁのチームの勝ちでしたからにゃ。言うことを1つ、聞いてもらったのですにゃ」
「な、なるほど……」
敗者は勝者の言うことを聞かなければならない。
そういうルールがあったらしい。
確かに、そんなことを言っていたような気がしないでもない。
「でも、どうして俺にエレナさんのパンツを?」
「にゃ? だって、お客様は変態ですからにゃ。こういうのが好きかにゃと思ったのですにゃ」
「…………」
ちくしょう。
エレナが俺のことを変態と呼びすぎたせいで、サーニャちゃんまで俺のことを変態扱いしているじゃないか……。
いや、実際そうなんだけど……。
ここは言い訳しておこう。
「いやいやいや! こう見えても俺、変態じゃないんですよ? ただちょっとだけ、女性の身体に興味津々なだけで……」
「にゃ? じゃあ、このパンティはエレナさんに返し――」
「すみません。俺は変態です。ありがたくいただきます!」
「にゃはは。最初から素直になればいいのにですにゃ」
サーニャちゃんは楽し気に笑っている。
モニカやニムの視線がどんどん冷たくなっているのを感じる。
後で、盛大に埋め合わせをしないと……。
俺はそんなことを考えつつ、エレナのパンツを大切にアイテムボックスに収納する。
そして、変態疑惑を返上するべく、その後は健全に海水浴を楽しんでいったのだった。
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