「――はっ!? こ、ここは……?」
私はベッドの上で目を覚ました。
どこか見覚えのある天井が見える。
「ゆ、夢でしたか……」
私はため息をついた。
あんな素敵な夢を見るなんて……。
相手は貴族だし、どうせあり得ないよね。
「……うう。変な気分」
夢の内容が鮮明に思い出せる。
おかげで、余計に気恥ずかしい気持ちになってしまう。
「よう、目が覚めたか」
「ひゃうっ!?」
不意に掛けられた声に、私は飛び上がるほど驚いた。
慌てて周囲を確認すれば、そこは造船所の医務室だった。
近くには、3人の女性と1人の男性がいる。
その内の1人は、私の助手であるメルルちゃんだ。
そして、私に声をかけたのは――
「は、ハイブリッジ様!?」
「おはよう、ムウ」
「ど、どうしてここに!?」
「ムウを治療していたんだよ。覚えていないか? 高所の作業中に落下してしまったんだぞ」
ハイブリッジ様が説明してくれた。
どことなく、夢の中の貴族様と似ていて照れてしまう。
ハイブリッジ様は気さくな人だけど、とっても凄い貴族様でもあるんだよね……。
魔導技師としての私を評価してくれているみたいだけど、女としては見てくれないだろう。
だって、彼はすごくモテるって聞くし……。
「あの……。助けていただいてありがとうございました」
「美少女がケガをしたら、万全の治療をするのは当然のことだ。それより、体にどこか違和感はないか?」
「あ、えっと……。そういえば、お股のあたりが変な感じです……。それに、胸も……」
私は自分の体を見下ろす。
いつもと違う気がする。
特に下半身の辺りが……?
「「「…………」」」
メルルちゃんを始め、他の女性2人も微妙な顔をする。
なぜだろう。
なんとも言えない変な空気を感じる。
「……?」
「ま、まぁ少しばかりの違和感は仕方ない。魔力回路に異常が生じていたわけだからな」
「魔力回路に? ……それって私自身の魔力回路ですか!?」
私は魔導技師だ。
魔導師団や冒険者のように、素早い魔法詠唱はできない。
でも、魔道具とかに魔導回路を刻むことは可能だ。
より高性能な魔導回路を組むためには、素早さよりも緻密さが求められる。
私自身の魔力回路が変になれば、仕事にも影響が出てしまうかもしれない。
「心配するな。落下時の外傷と併せて、俺が責任を持って治療済みだ。しばらく様子を見れば、違和感も収まるだろう」
「そ、そうなんですか……。良かったぁ」
私はホッとした。
唯一の長所である魔導技師としての仕事を失ってしまったら大変だ。
でも、その不安はすぐに解消された。
私は改めて、ハイブリッジ様に頭を下げる。
「本当に助かりました。ハイブリッジ様のおかげです!」
「気にするな。ムウにはこれからも頑張ってもらいたいからな。それに、魔導技師としてだけでなく、俺は君自身にも惚れ込んでいるんだ」
「え……? は、はい……?」
聞き間違いかな?
あの高名なハイブリッジ様が、私に惚れ込んでいるって聞こえたんだけど……。
魔導技師としてだけではなくて、私自身のことを……。
体が真夏のように火照ってしまう。
「おっと……。今の言葉は忘れてくれ。ムウには、素晴らしい隠密小型船の製造に集中してもらいたい。もちろん、事故の直後だし無理のない範囲でな」
「は、はいっ! 分かりました!!」
やっぱり何かの言い間違いだったようだ。
そりゃそうだよね。
私みたいな小娘が相手にされるわけない。
(あーあ……。夢みたいには、都合よくいかないよね……)
さっき見た夢。
あれが夢で良かったような、夢で残念だったような気分になってくる。
ダダダ団の脅威は去っているのは間違いなく嬉しい。
でも、貴族様が女としての私を求めていないのは悲しい。
(ううん……。ハイブリッジ様と言えば、領地を発展させるためにどんどん配下を増やしている人……。私も頑張れば、スカウトされるかもっ!)
私は気合いを入れる。
ハイブリッジ様は少し変なところもあるみたいだけど、それを除けば立派な貴族様だ。
私を助けてくれるぐらい優しいし、これからも良い関係を築いていけるかもしれない。
あわよくば、それ以上の関係になっちゃりして……。
なんてね。
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