「ふぅ~。昼飯も美味かったな」
食事を終えたタカシたちが次に向かったのは、旅館内にある遊戯場だ。
彼らはそこで卓球を楽しむことにした。
メンバーはタカシ、リッカ、フレンダ、ミティ、アイリス。
タカシがルールを解説していく。
「いいか、これは卓球というスポーツで……」
「へー。タカシの故郷じゃ、こういう遊びがあったんだね」
興味津々といった様子のアイリス。
彼女の視線は、タカシの持つボールやラケットへと向けられていた。
タカシの監督の元、卓球台、ピンポン玉、ラケットなどはある程度再現されている。
だが、もちろん完璧ではない。
言わばなんちゃって卓球ではあるのだが、軽く楽しむだけならばこれで問題ない。
「ボク、さっそくやってみようかな」
「なら、フレンダちゃんが相手するよ~」
まずはフレンダがサーブを行った。
それは見事なフォームから繰り出された高速サーブである。
「えっ? 速っ!!」
かろうじて打ち返すアイリスだったが、それはネットに当たってしまった。
「はい、1点ね~」
フレンダは笑顔で言う。
どうやら、彼女には手加減という概念はないらしい。
(まぁ、彼女も地球出身っぽいしなぁ……)
卓球という競技においては、タカシとフレンダがやや有利だ。
なにせ、アイリスたちには卓球の経験がないのだから。
……と思われたのだが――
「あ、あれれ~?」
コンコン!
カンカンカン!!
激しいラリーが続く。
いつの間にか、いい勝負になっている。
これには驚くしかないタカシであった。
「アイリスちゃん~!? 順応が早すぎるよ~!!」
フレンダの驚きの声。
そう、アイリスはすぐにコツを掴んだのだ。
武闘家として元々運動神経がいいこともあり、すぐに要領をつかんだようである。
タカシのチートスキル『ステータス操作』によって、視力強化や器用強化のスキルを取得していることも大きいだろう。
「ふっふーん! 簡単には負けられないよ!!」
得意げに胸を張るアイリス。
彼女はさらにギアを上げていく。
そして――
「いっけぇーっ! 【五光一閃】!!」
バシィッ!
強烈なスマッシュが決まった。
これにより、フレンダvsアイリスの勝負は決した。
「やった!!」
「ふぇ~ん。負けちゃったよぉ……」
喜ぶアイリスとは対照的に、悔しそうなフレンダ。
そんな彼女たちに声をかけるタカシ。
「二人とも、なかなかやるじゃないか」
「えへへ」
照れ笑いを浮かべるアイリス。
対して、フレンダの表情は暗いままだ。
そんな彼女の肩に手を置きながら、タカシは言った。
「落ち込むことはないさ。フレンダも十分強かったぞ?」
「……本当?」
「ああ、本当だとも」
「……そっか」
納得したのか、笑顔を見せるフレンダ。
そうこうしている内に、次の試合が始まったようだ。
今度はミティとリッカの戦いである。
(さて、どうなることやら……)
二人の試合を見守るタカシたち。
最初に仕掛けたのはリッカだった。
「――【神霊纏装・アーティルドラ】!」
彼女が発動させたのは、自らの体に神霊の力を宿す武技だ。
聖なるオーラを纏ったリッカは、一気に攻勢に出た。
「速いっ……! それに――単純に眩しいっ!!」
思わず目をつむるミティ。
「くっ……目潰しとは卑怯な……」
呟くミティだが、そもそもこの戦いにおける明確なルールは定まっていない。
ざっくりとしたルール説明はタカシが行ったのだが、細かい部分は敢えて教えていない。
つまり、この場において反則行為など存在しないのである。
「ふっふっふ。聖女である僕様ちゃん相手に、そんな隙を晒すなんて甘いですよっ!」
「ぐぬぅ……!」
リッカの攻撃に押され気味になるミティ。
次々に得点を決められていく。
圧倒的な点差が開き、このままでは敗北するのも時間の問題かと思われたが――
「まだです! タカシ様をボコボコにされた恨みは、まだ忘れてませんから!!!」
次の瞬間、ミティから燃える炎のような闘気が溢れ出す。
そして――
「【剛拳流・侵掠すること火の如し】!!」
「なっ!? ば、馬鹿な……です! そんなふざけた闘気の量……あり得ないですっ!!」
リッカは驚愕する。
まさか、これほどの闘気を持つ者がいるとは思わなかったからだ。
「昨日戦ったときには、こんな力は感じなかったはずなのです! なんで急にここまで強くなっているです!? 昨日は手を抜いていたとでも言うですか!?」
動揺するリッカ。
そんな彼女に対して、ミティは言う。
「教えてあげましょう。それは――」
「そ、それは……?」
「昨日は疲れていたのです。午前は普通に働いて、午後はアダマンタイトの巨石を運びましたから。本当に疲れていました」
「……えぇ……?」
あまりにも予想外の回答だったようで、唖然とするリッカ。
そんな彼女に対して、ミティはさらに続ける。
「ですが、今は違います! 昨晩と今朝に温泉を堪能し、体力を回復しましたからね! 今の私はフルパワーです!!」
「くっ……。で、ですが意味はないです! この卓球とかいう遊戯では、パワーが強すぎると逆に不利になります! 僕様ちゃんの勝ちは変わらないのです!!」
「……なるほど」
確かにその通りだと納得するミティ。
だが――
「……ですが、問題はありません! こうすればいいだけです! 必殺サーブで終わらせます! はあああぁ……!!」
そう言ってミティはボールを宙に放り投げた。
そして、ラケットを力強く振りかぶる。
「え……? あ、あの……」
戸惑うリッカを無視して、そのまま振り抜く彼女。
「【ミティ・ホームラン】!!」
そのスイングスピードたるや凄まじく、ボールはまるで弾丸のように放たれた。
「ぐぽぉっ!?」
見事に命中して吹き飛ばされるリッカ。
彼女の体はピンポン玉のように弾んでいく。
そして――ガンッ!!
凄まじい音を立てて壁に激突し、磔状態となった。
「十字架を背負って生きなさい……」
まさに逆転ホームラン。
圧倒的な点差を一撃でひっくり返す。
磔状態から復活しないリッカを見て、ミティは満足げに微笑むのだった。
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