「結界妖術は厄介だな。神に由来するものなら、なおさらだ」
俺の言葉に、諦観と憂いが滲む。
いくらこちらが力を持っていようと、神の領域にまで踏み込むには、それなりの覚悟が必要だ。
大抵の藩に対しては、『最終的には俺が単騎で突っ込んでいけば8割方は何とかなるんじゃね?』という甘い考えを持っている。
だが、虚空島だけは微妙だ。
あまりにも情報が少ない。
空に浮かんでいて潜入できないという物理的な事情に加え、住んでいるのが天上人とかいう偉そうな奴らで、情報統制がされているという事情もある。
それに加え、神とやらが結界の構築に加担しているのであれば、もはやお手上げだ。
「……私が行く……」
場の空気を切り裂くように、控えめだが確かな声が届いた。
驚いて視線を向けると、桔梗が静かに立ち上がっていた。
その小さな体からは想像できない芯の強さが、淡い灯火のように漂っている。
「桔梗が? ……おいおい、まだ情報が少なすぎる。俺でさえ単騎特攻は躊躇する地なのに、桔梗を行かせられるわけがないだろう?」
思わず言葉が荒くなる。
守りたいという気持ちと、信じたいという気持ちが拮抗していた。
「……ん、大丈夫。神の存在を探るだけだから……」
彼女の声は小さいが、はっきりと届く。
曖昧な微笑と共に口にされたその一言には、どこか抗えない力があった。
「ええっと?」
俺は思わず目を細めた。
桔梗の頑張る意志は伝わってくる。
だが、詳細が掴めない。
彼女は口数が少ないタイプだからな。
日常生活においては特に問題ないし、親睦を深めるには肉体的なスキンシップという手段もあるのだが……。
「……虚空島の下に広がる、山脈地帯。そのどこかに、神を祀らった神社や迷宮がある……かもしれない。私はそれを探すだけ……」
その声には波紋のような余韻がある。
言葉のひとつひとつが、静謐な空気を押し分けるようにして発せられた。
石のように確かで、重く、心の奥底へと沈み込んでいく。
目の前の人物がその言葉にどれほどの覚悟を込めたのか――それを察した瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
「ふむ……」
低く返したその声は、思考の深淵から這い上がってきたものだった。
俺は短く目を閉じ、思索に沈む。
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