温泉に突撃したタカシ。
そこでは、聖女リッカが入浴中だった。
当然のごとく激怒した彼女だったが、ここで予想外のことが起こる。
それは、タカシが彼女に惚れ込んでしまったことだ。
「素晴らしい……。素晴らしいぞ……」
守備範囲の広い彼にとって、外見年齢10歳前後のリッカはストライクゾーン低めに入っている。
見た目通りの少女であれば、彼もアプローチを自重したことだろう。
しかし、リッカの実年齢は高い。
タカシはその事実を知らないとはいえ、戦闘中のやり取りで何となく察していた。
「リッカ……。お前への提案なのだが……」
タカシが厳かにそう切り出す。
ちなみに、一歩出遅れたミティとアイリスは傍らで成り行きを見守っている。
「な、何です?」
顔を赤くしたリッカがそう聞き返す。
彼女は聖女として、非常に強固な貞操観念を持っている。
その上、ずば抜けた戦闘能力を併せ持つ。
これまでの彼女の人生で、異性から具体的にアプローチされたことは皆無であった。
ましてや、入浴中に突撃してきた全裸の男から言い寄られるなど、さすがのリッカと言えども平静でいられるはずがない。
「お前も妻にならないか?」
「ふへっ?」
突然のタカシからのプロポーズに、変な声を上げてしまうリッカ。
まさかの発言を受けて混乱する彼女を他所に、タカシはさらに話を続ける。
「戦えば解る。お前の実年齢は20歳以上だな? その肉体……練り上げられている。至高の領域に近い」
「……ッ!? ぼ、僕様ちゃんは聖女。聖女リッカです。不埒な目で見るなです……」
「リッカ。お前は桁違いの戦闘能力を持ち、治療魔法にも長けている。……それなのになぜ、さほど幸せそうでもなさそうな顔をしている?」
「……ふぐぅ。だ、だって、無辜の人々が魔物の脅威に晒されているですから……。僕様ちゃんだけが幸せになるわけには……」
タカシの問いに、小さな声で答えるリッカ。
そんな彼女に、タカシは優しく微笑みかける。
「そうだ。お前が聖女だからだ。義務感から孤独に戦っているからだ。全て救おうとすれば、どこかで必ず無理が出る。……俺と共に歩んでいこう、リッカ。そうすれば、より多くの人々を救うことができる」
「うぐぐっ! む、無茶言うなです! 僕様ちゃんは聖女です! お、おいそれと承諾できるわけないでしょうがぁ!」
顔を真っ赤にしながら反論するリッカ。
そんな彼女に構わず、タカシは続けた。
「そうか……。俺はお前が欲しいが……仕方がないな。今日のところは諦めるとしよう」
彼はそう言うと、ゆっくりと湯船に浸かった。
そのまま目を閉じ、気持ちよさそうに息を吐く。
そんな彼を横目で見ながら、リッカがポツリと呟く。
「……お、お風呂に入ってるときまで戦う必要はないです。お、大人しくしていれば、一緒に入ってやるですよ……」
「本当か!? よしっ! 俺は大人しくするぞ! 大人しくするとも!!」
喜び勇んだタカシが、勢いよく立ち上がる。
その際に、彼の股間がチラリと見えてしまったリッカが慌てて目を逸らす。
「な、なぜです……!」
「ん?」
「どうして大きくしているです!? こ、こんなときに盛ってるんじゃないですよ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶリッカ。
そんな彼女に、タカシが言う。
「これは男の生理現象だ。気にするな」
「気にするです! ぼ、僕様ちゃんみたいな子どもをそういう目で見るなんて……! 変態です!!」
「いやいや……先ほども言ったが、お前の実年齢は20歳を超えているだろ? つまり、俺はセーフだ」
「アウトに決まってるです! 聖女の呪いで成長が止まった僕様ちゃんを見て興奮するやつは、変態の中の変態なのです!!」
真っ赤な顔で抗議するリッカであったが、タカシはどこ吹く風である。
「落ち着けって。美しい顔が台無しだぞ? ……幼い外見とはいえ、それほどの美貌を持っているんだ。今までに言い寄られたこともあろうだろうに……」
「直接言われたことはないです。何も知らない貴族が、教会側経由で根回ししようとしたことはあったですけど……僕様ちゃんの実年齢を知ったら、みんな逃げていったです」
「へぇ? そんなことがあったのか。情けない貴族どもめ」
「君も、きっと同じことになるです。僕様ちゃんの実年齢は……」
リッカがタカシに実年齢を伝える。
「なるほどなぁ……」
納得したような素振りを見せるタカシ。
そんな彼に、リッカが続けて言う。
「どうです? 下手をすれば、君の母親くらいの年齢かもしれないです」
そう言って自虐するような笑みを浮かべるリッカだが、タカシは特に動じていないようだ。
それどころか、平然と言ってのける。
「いや、別にどうとも思わないな」
「なぬっ!?」
驚きのあまり固まるリッカを尻目に、タカシは彼女に近づいていく。
そんなタカシに対して、リッカは身構える。
「言葉ではどうとでも言え――。なっ!? どうしてまだ大きくしているですか!?」
「ふっ。俺はタカシ=ハイブリッジだ。ロリコンとマザコン、両方の性質を併せ持つ」
堂々と宣言するタカシ。
そんな彼を見ながら、リッカはさらに顔を真っ赤にするのだった。
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