地響きが響く。
拳が閃き、足が唸る。
俺を取り囲む三人の武闘家たちは、寸分の迷いもなく技を放ち続けていた。
「【千華烈光拳】!」
「【連鳳轟雷脚】!!」
「【千襲連牙】ぁあ!!」
三つの技が交錯し、風圧だけで周囲の地面が抉れる。
この技量、ただの武僧ではない。
那由多藩の最高戦力と呼ばれるだけのことはある。
「ほう……なかなかやるじゃねぇか」
俺は口元を歪めながら、彼らの猛攻を紙一重で回避していく。
振り下ろされる拳を肩越しにかわし、蹴りの連撃を寸前で逸らし、牙のような肘打ちを背後に受け流す。
――湧火山藩を攻め落とした俺は、流華と共に桜花藩へ人質を連れ帰った。
そして、数日前に次の標的である那由多藩へ一人で足を踏み入れていた。
那由多藩は、桜花藩の東に位置する。
地図のイメージはこんな感じだ。
北北
北北北北
北北北北
北北
北北
北北北
北北北
中中北北
中中中漢漢
九九九 重重近近中中中漢漢
九九九 重重近近近中中漢漢
九九 桜那中中
九九 四四 湧近
九九 四四
桜……桜花藩
湧……湧火山藩
那……那由他藩
那由他藩の支配を確立できれば、近麗地方の南半分のほとんどを掌握したことになる。
ミッション『近麗地方一帯を掌握し、支配しよう』の達成に向けて順調に進行中だと言えるだろう。
だが、当然ながら侵略には戦いがつきものだ。
那由多藩の実質的な統治者である高僧たちを屈服させねばならない。
そして今、俺は戦力的な意味でその頂点に立つ三人の武僧と対峙している。
流石は最強の武闘家たちだ。
一撃でも貰えば、並の人間なら骨が砕けるだろう。
だが、それでも――
「俺には届かねぇよ」
三人の猛攻をいなしながら、俺は静かに呟いた。
動きは確かに鋭いが、それでも俺に痛打を与えるには足りない。
チートスキル『ステータス操作』によって『格闘術』『回避術』『視力強化』『脚力強化』『闘気術』などを取得し強化してきた俺を正攻法で打ち破るのは至難の業だ。
俺は隙を見て一歩後退すると、ゆっくりと右手を掲げた。
「悪いが、俺は武闘以外にも長けていてな。遠慮なく使わせてもらうぜ。――【火めくり】」
次の瞬間、炎が生まれる。
空気が歪み、燐光のような赤い火が武闘家たちの衣を包み込んだ。
轟、と爆ぜる炎の音。
武闘家たちの衣が一斉に燃え上がる。
「ぐぬっ……!」
「この程度の炎で、我らが止まると思うな!」
「心頭滅却すれば火もまた涼し!」
……おいおい、マジかよ。
武僧どもは炎を意にも介していない。
燃える衣のまま、彼らの闘志は一切衰えないどころか、さらに熱を帯びていく。
虚仮威しは通用しなかったらしい。
「……ふん。さすがに見くびりすぎたか」
俺が舌打ちするのと同時に、武闘家たちはさらに気合を高めた。
「もう一度いくぞ! 【千華烈光拳】!!」
「我らの連撃をいつまで避けられるかな!? 【連鳳轟雷脚】!!」
「おおおおっ! 【千襲連牙】ぁあ!!!」
三方向から繰り出される神速の連撃。
火を纏いながらなお猛る武僧たちの執念には、正直驚きを隠せない。
「やるじゃねぇか」
俺は嘆息しつつも、既に決着は見えていた。
武僧たちがいくら強かろうと、俺の前では勝ち目はない。
「良いものを見せてもらったよ。連撃がご自慢のようだから……お返ししようか」
俺は深く息を吸い込み、魔力と闘気を同時に高める。
体内の力が暴れるように膨れ上がり、圧倒的な威圧感が周囲を包む。
武闘家たちの表情が、一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、曇った。
だが、それで十分だった。
「くらえっ! 【火めくり華・連打】ぁああ!!!」
炎を纏った拳を、一気に解き放つ。
ドンッ!!
ドドドドド!!!
衝撃波が炸裂し、数え切れないほどの拳が武闘家たちの腹に突き刺さる。
一撃ごとに爆ぜる炎の衝撃が、彼らの体を弾き飛ばしていく。
「ぎゃっ!?」
「ぐふっ……!?」
「あぎ……」
三人の武闘家は、無様に地面に崩れ落ちた。
微動だにしない。完全なる勝利だ。
「……悪くなかったぜ」
肩を回しながら、俺は小さく呟く。
那由他藩の最高戦力を撃破した今、あとは政治的なトップと『話し合い』をするだけだ。
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