「大胸筋は問題なさそうだな」
「そ、そうか……。良かった……」
俺がそう告げると、流華が安堵したような表情を浮かべる。
大胸筋を揉み終わった直後だ。
なぜか妙な空気になったが、流華は大丈夫だろうか?
「次は下半身だ。ズボンを脱がせてもらうぞ」
「あ、ああ……」
俺は流華のズボンに手をかける。
彼は恥ずかしいのか、モジモジしていた。
「どうした? やはり、どこか調子が悪いのか? 遠慮せず言ってくれ」
「そ、その……、兄貴に脱がされるのってなんか恥ずかしいなと思って……」
「ふむ。なら、自分で脱ぐか?」
「い、いや! ひと思いに兄貴がやってくれ!!」
流華はそう叫ぶと、俺に背を見せる。
威勢はいいのだが、正面を向くのは恥ずかしいらしい。
「分かった。ならば、ズボンを脱がすぞ」
「おう……」
流華が頷く。
俺は彼のズボンを下ろした。
「……ほう」
俺の口から、またもやそんな声が漏れる。
流華の大臀筋は、中々に鍛えられているようだ。
やや小さいながらもしっかりとした膨らみを持つ、立派な大臀筋である。
「これは……素晴らしいな」
「そ、そうなのか? オレ、よく分かんねぇんだけど……」
流華は緊張のためか、声が上ずっている。
背後からチラリと見える横顔は、リンゴのように真っ赤になっていた。
そんな状態で、彼は背筋をピンッと張って気をつけの姿勢で俺の前に立っている。
健気だ……。
俺は彼に兄貴と呼ばれ、慕われている。
その期待に応えてやらねばなるまい。
まずはしっかりと知識を伝授していこう。
「ああ。とても素晴らしい大臀筋だ。将来は有望だぞ」
「だいでんきん?」
「尻の筋肉のことだ」
俺はそう説明する。
大臀筋とは、お尻にある大きな筋肉だ。
太ももの表側にある大腿四頭筋。
太ももの裏側にある大腿二頭筋などを始めとするハムストリングス。
ふくらはぎにある腓腹筋やヒラメ筋。
これらに並んで、下半身の運動に大きな影響を及ぼす筋肉が大臀筋である。
お尻の筋肉というと弱そうに見えるかもしれないが、これがなかなか重要な役割をしてくれるのだ。
「大臀筋が弱いと、下半身が不安定になる。その結果として、膝や腰などを痛める原因になるんだ」
「へぇ。そうなのか……」
流華が頷く。
俺はさらに続けた。
「他の筋肉と同様、大臀筋は意識的に鍛えることもできる。流華が一人前になっていく上で、大臀筋の強化は一つの重要な課題だな」
「ふむふむ……」
流華は感心したように頷く。
元スリの浮浪児だった彼だが、その理解力や学習欲は申し分ない。
ちゃんと俺の話を聞いてくれる。
ま、俺は記憶があやふやなのでこういった知識がどれくらい正確かは自信がないのだが……。
人物や出来事の記憶はともかく、一般的な知識については現状でもそれなりの精度があると思う。
「で、どうすればいいんだ? 兄貴?」
「これから毎日、大臀筋を鍛えるトレーニングを行っていくぞ」
俺はそう提案した。
大臀筋の強化は、流華が一人前の男になるために避けては通れない道だ。
彼の将来のため、俺も全力でサポートせねばなるまい。
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