【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1449話 薄着で謝罪回り

公開日時: 2024年7月19日(金) 12:29
文字数:1,825

「お、おい……あれ……」


「ああ。例のスリ野郎だな」


「いいザマだぜ」


「ざまぁみやがれ!」


 流華が通りを歩く。

 それだけで、周囲の人々の視線が集まった。

 最初に気付いた数人が声を上げ、それによりさらなる視線が流華に注がれる。


「おい! あいつ、また何かやらかす気か?」


「スリをやったんだろ?」


「いや、やるわけねぇだろ。仏顔三度法の罰が執行されたばかりだぞ」


「じゃあ、なんであんな格好で大通りに来たんだ?」


「さぁな。何やら流れの侍が同行しているみたいだが……」


 俺は大通りを堂々と歩く。

 手には紐を持っており、それは流華の手枷に繋がっている。


「おら、さっさと歩け! この罪人が!! 拾ってやった恩を忘れたか!!」


「うぅ……」


「迷惑をかけた皆様へ、お前の情けない姿を見せつけてやらねばならないからな。ゆっくり歩くぞ!」


「わ、分かったよ……兄貴……」


 流華が歩き出す。

 と、周囲の人々から声がかかった。


「なぁ、あんた」


「……ん? 俺か?」


「ああ。いったい、これは何をやってるんだ?」


「見ての通り、こいつの謝罪行脚だ。仏顔三度法が適用された者が自由になるために必要な、な」


「はぁ……」


 男は怪訝そうな顔をする。

 そんな男に対して、俺はさらに言った。


「別に、そのまま野垂れ死にさせても良かったのだがな。ちょうど雑用係がほしかったところだ。これから、こいつに色々やらせてやろうかと」


 もちろん、本心ではない。

 俺は、独りよがりの倫理観や正義感で流華の人生を乱してしまった。

 その償いとして、彼の面倒を最後まで見る所存である。

 俺に手持ち資金がもっとあれば、金銭をふんだんに用いた解決も可能だったかもしれないが……。

 残念ながらそれは無理だったため、流華本人にも協力してもらった謝罪回りをしているのだ。

 彼にはめた手枷についても、本人からの許可を得ている。


「そ、そうなのか……」


「ああ。ところで、そなたもスリ被害者の一人とお見受けするが?」


 俺はそう指摘する。

 例の侍から、謝罪すべき対象のリストは貰っていた。

 その中に、この男性もいたのだ。


「そうだ。俺もこいつに金を盗られた。かなりの額だ」


「それは災難だったな」


 俺は頷く。

 事前情報によれば、相当なお怒り具合だったはずだが……。

 今はそう見えないな。

 この特殊な格好による謝罪回りが功を奏しているのかもしれない。


「ほら、流華」


「……へ?」


 羞恥や屈辱に震えていたのか、うつむいていた流華が顔を上げる。

 これ以上追い込むと、トラウマになってしまう可能性はある。

 だが、ここが踏ん張りどころだ。

 被害者たちからの処罰感情が薄まれば、彼は自由の身になる。

 俺に同行してもらえれば右手首の治療を続けられるし、食うに困ることもない。

 俺は心を鬼にする。


「な……何を……?」


「謝罪だ」


 俺は言う。

 流華は顔を真っ赤にし、男性に向き直る。

 そして、目を泳がせながら男性に言った。


「ご、ごめんなさい……。反省しています……」


「…………。あ、ああ……」


 流華の謝罪に男性は頷く。

 思ったよりも怒っていないようだ。

 それどころか、流華のしおらしい態度に戸惑っている様子すらある。


「納得いただけただろうか?」


「……え? ま、まぁな……」


 男性は曖昧に頷く。

 特殊な格好をすることによる謝罪は効果てきめんだな。

 これほどの効果があるとは思わなかった。


「しかし、この格好に、この体つき……。まさかこいつは女だったのか……?」


「何を言っている? 流華は男だ」


「……そうなのか? しかし、あんたはこいつの格好を見て興奮して……」


 男の視線が、俺の股間と流華の股間とを行き来する。

 不覚にも、また反応してしまっていたか……。

 流華は男だが、妙な色気があるからな。

 仕方ないことだ。

 実際、この男も『まさかこいつは女だったのか』と勘違いしてしまうぐらいだし。


「……まぁいい。どちらにせよ、茨の道か……」


「うん?」


「頑張れよ、スリ野郎。とんだ変態主人に拾われたみたいだが、生きていればいいことあるさ。……きっとな」


 男性はそう言うと、さっさと立ち去ってしまった。

 彼が何を言っているのか、よく分からなかったな……。

 なぜか俺に軽蔑の視線を向け、流華には同情的な視線を送っていた。

 彼は流華のスリ被害者の一人だったはずなのだが……。


「細かいことは気にしないでおくか。さぁ、流華。次へ行くぞ」


「……ふぇ?」


「何をボーッとしている? 最後のひと踏ん張りだ」


「あ、ああ……」


 俺は流華を連れて、次の被害者の元へと向かう。

 そして、そのまま無事に謝罪回りを完遂したのだった。

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