「再生能力……? いえ、違いますね。これは――蓄熱型ですか」
一瞬の沈黙ののち、ミティは目を細める。
じっと見つめたのは、まるで火山のように光を放つ獣の背。
そこに込められていたのは、生命力ではなく、蓄積された妖力だった。
その立派な体毛に、火の妖力を貯蔵していたらしい。
燃えさかる意志のようなそれは、外付けのバッテリーのごとく、再戦の力をその身に供給していた。
言わば、最大HPや最大MPが底上げされているような状態だ。
しかし、それは治癒の力ではない。
消耗させれば、いずれは確実に崩れる。
「ゴアアアアァッ!!」
突如、妖獣が咆哮とともに周囲へ炎を撒き散らす。
空気が破裂し、あらゆるものを焼き尽くそうとする熱波が波紋のように広がった。
ミティは即座に動きを止め、炎の流れに逆らわず、その場で身を伏せた。
彼女の表情に焦りはない。
むしろ――
「やはり、それが狙いですか。妖獣とはいえ、学習能力は高いようです」
妖獣は、動きを止めた彼女を狙って突進してきた。
圧倒的な速度と質量、まさに猪突猛進。
しかしミティは、その迫力に怯むどころか、むしろ笑みを浮かべていた。
「お見事。いい作戦です」
その言葉は挑発ではなかった。
純粋な称賛――だが同時に、それは対応する一手を備えている者の声でもあった。
炎が舞う。
牙が迫る。
しかし、ミティの瞳は静かだ。
恐怖に揺れることはなく、ただ冷静に、冷徹に戦況を見据えている。
その手には、重量級のハンマー。
彼女は軽やかにその武器を操り、迫る獣の牙を正確に打ち砕いた。
金属が火花を散らし、衝撃が空間を震わせる。
「ありがとうございます。おかげさまで、ひとつヒントをいただきました」
彼女の声が、夜の静けさの中に落ちた。
湖面に映る顔には、柔らかい笑み。
だがその奥底には、燃え上がる意志があった。
彼女は軽く獣を弾き飛ばし、距離を稼ぐ。
そして――
「レオ……ボンバー!!」
その名を高らかに宣言し、彼女はハンマーを振り下ろした。
妖獣の動き、その戦法、その性質。
すべてを見極め、良いところを学習した上での改良技。
ビッグ・ボンバー改め、レオ・ボンバー。
その衝撃は大地を割り、空気を断ち、重い雷鳴のように炸裂した。
「ガッ!? グ、グルルゥ……! ウウゥ…………」
巨体が、音を立てて崩れ落ちる。
その衝撃は地面に波紋のような震動を走らせ、やがてそれすらも土が吸い込むように消えた。
獣の鼓動が止んだことを告げる静寂が辺りを満たしていく。
だが、ミティはその場に立ち尽くしたまま、決して構えを解こうとはしなかった。
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