俺は『海神の大洞窟』でエリオット王子と面会している。
傍らにはメルティーネ姫も見守ってくれている。
人魚族の教育方針の転換や『海神の憤怒』という組織について、いろいろ話してくれた。
そして話題は、『本来の目的』とやらに移っていく。
「俺は確かに、治療岩にて軽傷者の治療を行った。それが何か?」
「うむ。その功績が、父王や元老院に認められた。俺が実際に話して、人柄に問題がないようであれば拘束を一部解除してよいとな」
「ほう……? それで、俺の人柄は認めてもらえたのか?」
「ひとまずは問題あるまい。右手に続き、左手を解放させてもらう。ただし、万が一にも暴れたりはするなよ」
「分かっている」
俺は了承する。
そもそも、その気になればいつでも拘束をぶっちぎって暴れたり逃げたりすることが可能なのだ。
そうしないのは、メルティーネが悲しんでしまうことと、ミッション『10人以上の人魚族に加護(微)を付与せよ』を達成するという明確な目標があるからに過ぎない。
「それでは、メルティーネは下がっていてくれ」
「え? ナイ様は危険な方ではありませんが……」
「あくまで念のためだ。いいから下がっていてくれ」
エリオットがそう言って、メルティーネを下がらせた。
彼女は不満そうであったが、素直に指示に従った。
(エリオットの判断も、まぁ当然ではあるよな……)
この場にいる主な人物は、俺、エリオット、メルティーネの3人だ。
少し離れたところには彼らの護衛兵もいるが……。
左手の拘束を外した途端に俺が暴れたりしたら、即座の対応は難しい。
メルティーネに比べると、エリオットから俺への評価はまだまだ様子見の保留中というレベルだな。
他の人魚族のように、露骨な悪感情を抱いていないだけマシだが……。
「ナイトメア・ナイト殿、拘束を外すぞ」
エリオットはそう言うと、俺の左手を拘束している『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』を外した。
ガシャンッ!!
その瞬間に、俺の両手から音が響く。
魔道具『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』が地面に落ちる。
俺は軽く手を動かしてみる。
「ふむ……。問題なく動くな」
俺は拘束が外れた左手をグーパーして動作を確認した。
それなりの時間、拘束されていたように感じるが……。
別にしびれや痛みは残っていないようだ。
俺は『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』を拾い上げる。
そしてエリオットに質問する。
「これは魔道具のようだが……もらってもいいか?」
「ダメだ。それは貴殿を拘束するために使われたものだ。それなりに貴重な魔道具なため、回収させてもらう」
「まぁ、そりゃそうか……」
俺はそう言って、左手分の『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』をエリオットに返却する。
できれば欲しかったが、ゴネてプレゼントされるようなものでもない。
今回は諦めるしかないだろう。
「……おや? そう言えば、右手分の拘束具はどこへ……?」
「あー、えっと……。私が返還しておきましたの。エリオット兄様」
「ふむ。それならば問題ない」
エリオットとメルティーネがそんなやり取りをしている。
実を言えば、メルティーネの説明は嘘だ。
右手分の『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』は俺のアイテムボックスに入っている。
何でも、『ジャイアントクラーケンを討伐してくれたにもかかわらず不当な拘束をしていることへのお詫びの品ですの』ということだ。
俺はお言葉に甘え、それらの拘束具をいただいた。
レアではあるが激レアというほどでもないため、後でメルティーネが激詰めされてしまうようなこともないだろう。
右手分の拘束具だけなので、俺を含めミリオンズ級の強者を拘束するには不足だが……。
Cランク冒険者ぐらいまでであれば、そこそこの拘束力を発揮すると思う。
ヤマト連邦でも何かの役に立つかもしれない。
「ナイトメア・ナイト殿、手の拘束が解けた貴殿に改めて質問させてもらいたい」
「なんだ?」
「貴殿が次に取り組むことは何かな?」
「次に取り組むこと……?」
俺は首を傾げる。
先ほどまでの俺は、右手だけが解放されていた。
チート持ちの俺でも、さすがにその状態ではできることに限りがある。
そのため、治療岩への初回訪問では軽傷者の治療だけに取り組んでいた。
「そうだな。まずは治療岩にいる重傷者の治療に取り組もうかな」
「ほう。それは殊勝な心がけだ」
エリオットが感心したようにうなずく。
左手が解放された後も態度を変えない俺を見て、少しばかり評価が上昇したようだ。
「ああ、いや……。その前にやってみたいことがあったんだ」
「やってみたいこと……?」
エリオットが首をかしげる。
せっかく両手が解放されたんだ。
これを使わない手はない。
幸い、今すぐにでもできることだ。
さっそく俺は動き出すことにしたのだった。
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