俺たちは秘密造船所を見学している。
総責任者ゴードンは、『鉄血』の名の通り優秀な人物だったようだ。
「いえ、ダダダ団の介入を想定できなかった時点で、私もまだまだです」
「そう卑下することはないぞ。そもそも、地元マフィアがいつの間にか勢力を増していて、横槍を入れてくるとは誰も思っていなかっただろう。俺だって予想外だった」
「ハイブリッジ卿にそう言っていただけるのは有り難いですが……。正直、あのままでは不味かったです。私の首が飛んでいたかも……」
「それは職務的な意味の首か?」
「いえ、物理的にです」
ゴードンは真剣な表情で言う。
どうやら、彼は相当にピンチだったらしい。
まぁ、今回の任務は重要なものだもんな。
サザリアナ王国とヤマト連邦の未来を左右する。
既にベアトリクス第三王女やソーマ騎士爵が現地入りをしているので、失敗は許されない。
そんな状況の中、後で別方向から潜入する俺の動きが遅れれば、作戦自体が破綻しかねないところだった。
「ふむ。つまり、俺はゴードンの命の恩人というわけだな? 感謝したまえ」
「はっ! ありがとうございます!!」
俺が冗談めかしに言うと、ゴードンは姿勢を正して礼を言う。
そんなゴードンを見て、俺は思わず苦笑してしまう。
「まぁそういうわけで、俺が造船に関して助言できることは皆無なんだ。すまないな」
「いえ、とんでもない! 一度ご覧になってもらえただけでも、有り難いことです。それでは、引き続き作業を続けさせていただきます!」
「ああ、よろしく頼む。素晴らしい船ができることを期待しているぞ」
「はっ! 必ずや完璧な船を完成させてみせましょう!」
ゴードンは俺に対して敬礼する。
大げさな奴だと思いつつ、俺は彼やその部下たちをねぎらうことにする。
「さて……。頑張っているお前とその部下たちのために、俺から何かプレゼントでもしようか?」
「プレゼントですか? お気持ちは嬉しいですが……私どもは、特務隊として給金をもらっております。ハイブリッジ卿のお手を煩わせるわけには……」
「いやいや、遠慮しなくていい。プレゼントと言っても、ただの差し入れだよ。見たところ、ろくなものを食べていないだろう?」
「それは……その通りです。機密性を確保するため、豪勢な食事の仕入れなどはできませんので……」
「だろうな……。よし、お前にまとまった量の肉を渡しておこう。後で適当に焼いて食べてくれ。作業の合間にでも、腹に入れておくといい」
俺は『アイテムルーム』から大量の肉を取り出す。
もちろん保存処理は済ませてある。
そしてそれを、とりあえず床に置いた。
「こ、これは……!? こんなにたくさん……よろしいのですか?」
「構わん。その代わりと言っては何だが……素晴らしい船を作ってくれよ」
「はい! もちろんですとも!! これは気合が入りますよ。部下たちも喜ぶでしょう!!」
ゴードンは感激した様子だ。
金も大事だが、納期の関係で疲弊している現場には現物支給も有効だろう。
ヤマト連邦への潜入作戦に向けて、『アイテムルーム』には食料を確保しておきたいところだが……。
小型隠密船の完成まで、あと1週間はかかるだろう。
もう少しかかるかもしれない。
その間に、俺は転移魔法陣をどこかに描いてラーグの街に転移し、ミリオンズの面々を迎えに行く必要がある。
食料は、またその時にでも『アイテムルーム』に入れておけばいいだろう。
「あー……。ねぇ、タカシ」
「ん? どうした、モニカ?」
「これってさ……材料だけ渡すよりも、私が料理を作った方が良くない?」
……確かに言われてみるとそうだな。
特務隊の面々にも、少しぐらい料理を作れる者はいるだろうが……。
一流料理人のモニカが作れば、もっと美味いものが作れるだろう。
「わ、わたしも手伝いますよ。どうせ、タカシさんと違ってしばらく暇になりますし……」
ニムがそう言う。
先述の通り、俺には転移魔法でミリオンズの面々を迎えに行くという予定がある。
だが、モニカとニムは特に予定がない。
ならば、この秘密造船所で何らかの仕事をした方が良いかもしれない。
「そうだな。2人が料理をしてくれれば、きっと美味しい料理ができるだろう。警備兵も作業員も、みんな喜ぶはずだ」
俺は素直にそう答える。
すると――
「え、ええええぇっ!? も、モニカ殿とニム殿が……!?」
ゴードンが驚愕の声を上げる。
何だ?
何か問題でもあるのか?
ゴードンの思わぬ反応に、俺は首を傾げるのだった。
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