「さ〜てと、これで研究が捗るぞ〜」
私は思いがけず手に入れた新しい研究材料を抱えて上機嫌に廊下を歩いていった
ここにきて色んな研究をやらせてもらっているけど、やっぱり一番は植物についての研究だよね〜
「……ん?動いてる?」
よく見ていると、植物の位置が動いていた
今までは容器の真ん中に居た筈なのに、いつの間にか端っこに移動している
……何が起こったんだろう?
根を張ってるから傾けたくらいじゃあ動かない筈なんだけど……
「え?え?え!?」
ボーっとしながら考え事をしていたら、急に植物が浮き始めた
呆気にとられて見つめていると、植物が飛んでいく
「あ、待って!!」
変な挙動をし始めた正体不明の生物を生身で追いかけるなんて、普段は絶対にしないのに、何故か今日はそうしてしまった
「あ……」
飛んでいった方を見ると、植物が青白く光っていた
「……どうしよ……」
放置すると不味いけど、手が届かない場所にある
普段ならその辺を歩いている研究員を捕まえて取らせるんだけど、今日は避難しているため、誰もいない
「自分で取るしか無いのか〜」
手を伸ばしたとき、後ろから気配を感じた
「?」
振り返ってみると、人影が見える
目を凝らそうと力を入れたら、どんどん気配が増えていくのが分かった
「え?え?何?」
何が起こっているのか理解ができず、動きを止めてしまう
「……あ!そうだ!なんとかしないと!」
あの植物は操れるのかな……?
まあ、そもそも地面についてない時点で私の操れる範囲を超えてるからね〜
「れ、連絡ってどれですれば良いんだっけ……」
相手の数が多いから応援を呼びたいけど、どうやって呼べばいいのか分からない
「……そう!これだ!」
思い出した!
緊急時の連絡はスマホじゃなくて専用の無線で連絡するように言われてたんだ
「ねぇ!神やん!城ちゃん!なんか大量に来てるよ!どうする!?私一人じゃあ無理だよこれ!」
『少しだけ耐えていろ!今そちらに応援が向かっている!数十秒もすれば着く筈だ!』
応援?!
何が来るの?
この状況を引っくり返せるようなのにしてよね!
「じゃあ、その間だけ耐えてれば良いんだね?!」
目安が分かって良かった
「さて……短時間でも私だけで対応するの、厳しそうだけどな〜」
というか〜こいつらってどこから湧いてきたの〜?
なんか侵入してきた感じでも無いし
まさか、内側から湧いたなんてこと、言わないでよね〜
そんなんだったら、警備も何も意味なくなるじゃ〜ん
「お、一応私の攻撃は効くんだ」
随分昔の人なのか、体に苔が生えていたからそれを増やしてみた
すると、その苔はしっかり増殖して相手は動けなくなった
あれが苔なのかどうかはわからないけど、どうやら植物ではあるようだ
「じゃあ、十分対応できそう……かな〜?」
数が多すぎて判断することが出来ないな……
「ま、すぐに応援が来てくれるって言ってたし大丈夫でしょ〜」
暫くは苔の生えた敵で壁を作って耐えようかな〜
――――――――――――――――――――
「よし!これで周りの敵は一掃した!」
これで今から応援に向かえる
それにしても、いくら何でも多すぎないか?
出来るだけ敵のいないところを通ろうとして色々探ってみたけど、一番敵の少ないここでも道が敵に塞がれていて通れないくらいだぞ
あと、気になるのは敵の密度の差が殆ど無いことだ
お陰でどこが敵の中心かは分かりやすかったけど
密度の差が無いってことは、敵がどこから入ったのか分かりにくいってことでもある
だから、本当は慎重に進まないといけないんだけど今はそうも言ってられない
急いで行かないと芳枝ちゃんが本当に終わってしまう
「ふぅ……走るか」
半年間という長い期間、僕は走っていなかったが、この緊急時に自分の足を開放した
かと言って、特別足が速いというわけでもない
精々普通の人より少し足が速いくらいだ
ん?……僕、普通の人よりは足が遅くなかったっけ?
まあ良っか
細かいことは気にしないでおこう
それより、今は救出が優先だ
よし……道は開けた
考え事をしながら相手の間に道がないか探っていたところ、上手く見つけることが出来た
その『道』を駆け抜け、奥に進む
(あ、居た)
先の方を見ると、一人奮闘している芳枝ちゃんが見えた
すぐに援護に向かおう
お焚き上げは……室内でするのはやめておこう
酸素が足りなくなっても嫌だし、この施設が全焼とかしたら不味い
ここは大人しく一つ一つ切っていくしか無いか
芳枝ちゃんの移動方向も意識しながら……っと
ここで解除しよう
「お待たせ!待った?!」
「うん!かなり待った!」
ええ……
こういう時は『いや、全然』って答えるのが定番じゃないの?
まあ、僕はそこまで気にしてないんだけど……
それにしても、珍しく大声を出すなぁ……
そんなに焦るような段階じゃ無いと思うんだけど
「よし!じゃあ脱出するよ!どこから出れば良いかとか、分かる?!」
「そんなの、出入り口からに決まってるでしょ〜」
出入り口ってどこにあるんだろう
「じゃあ案内して!」
「おっけ〜。じゃあまず、向こうの方に道を作ってくれないかな〜?」
言われたので素直に道を作る
よし、これで今やらなくちゃいけないことは終わりだな
「じゃ、僕は先に帰っとくね」
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