人類戦線

さむほーん
さむほーん

第五十話 出勤

公開日時: 2022年5月29日(日) 16:00
文字数:2,106

「うわぁ……出動だって」


城崎クンから連絡が来た


これ、僕らのこと多少使える奴隷くらいに思っているんじゃないだろうか?


だとしたら、今後はそのイメージの払拭も頑張らないといけないんだけど


「えぇ……僕らさっき帰ってきたばっかりですよ……まあ、一応待機しておけとは言われてますけど」


そう、さっき帰ってきたときに仮拠点で待機しておけとは言われている


もちろん、『待機』だからこんなふうに出動を命じられる可能性も考えてはいたけど……


ちょっと早すぎる気がするんだよなぁ……


「それで伏原会長、どうします?僕はもうちょっと休んでからの方がいいと思いますけど……」


篠原クンが尋ねてくる


僕も本当ならそこに同意したいんだけど……


このまま帰ったら僕らの立場はどうなるよ?


傍から見たら任務放り出して逃げ帰ってる奴らに見えるからなぁ……


「流石に不味いんじゃない?敵前逃亡+命令違反+反乱未遂した人なんて誰も仲間に入れようとしないでしょ」


「反乱未遂?何でそうなるんですか?」


篠原クンが不思議そうに尋ねる


「当たり前だよ。トップを見捨てて本拠地に戻ってきたら何か反乱でも起こすのかな?って思うでしょ、普通」


というか、その考えに至らないのか?


この子、もしかして何も考えていないんじゃ……


「ああ、なるほど。そういうことですか」


「じゃあ、進むよ」


篠原クンを連れて官邸の方へ進む


しばらく進むと、篠原クンが質問をしてきた


「ところで、こういう要請を送ってくるってことは、向こうの方、結構キツイんですかね?」


まあ、確かにそのことには同意するけど……


「う〜ん……確かに城崎クン、あんまり人に協力を要請したりしないからなぁ……もしかすると結構きついのかもしれないね」


そうこうしているうちに、官邸の前に辿り着いた


左の方で、誰か二人が戦っているみたいだ


あれ?そのうちの片方、城崎クンじゃない?


「何であの人、あそこで戦っているんでしょうね……」


一人で敵と戦っている城崎クンに向かって篠原クンが不思議そうに言う


「分からないけど……敵が来たんじゃない?これだけ時間が経てば相手も神柱クンや例の見えない子の侵入にも気付いてるかもしれないし」


「……それって、作戦失敗ってことですかね?」


作戦失敗か……


「まあ、予定通りに行ってない……って意味なら失敗なんじゃない?」


そもそも、この作戦自体ちょっと無茶があるような気がするしね


「よし!そんなことはどうでもいいから僕らも参加するよ!」


とは言っても、入るタイミングを間違えればむしろ邪魔になることもある


不意打ちは色々考えるタイプの味方には却って邪魔になることもある


戦闘の切れ目を見つけて乱入するのがベストかな?


「今助けますよ!城崎さん!」


あ、この子かなり馬鹿だ


話が聞けないというより、話をする時間をくれないからそもそも説得ができない


うわぁ……もう攻撃しちゃったじゃん……


仕方ない。僕もそれに合わせて動くことにしよう


いつもの丸薬を飲み込み、戦闘に備える


丸薬を飲んだ状態では、操作よりも解析に重点を置いた方が強いということに最近気付いた


ということで、今日はサポートに集中することにした


「篠原クン!左から攻撃!」


少し驚いたみたいだけど、ちゃんと左からの攻撃は避けてくれたようだ


普段からこんなふうにちゃんと話を聞いてくれたら良いんだけど……


しかし、城崎クンは全然こっちと意思疎通を取ろうとしないな


もうちょっと話してくれないと連携も取れないんだけど……


「ねぇ!これ、どういう状況?!伝えにくいのかもしれないけど、ちょっと聞かせて!」


城崎クンに話を聞こうとする


彼は、少し迷ったようだが、特に何も言わずに戦闘を続けた


やっぱり相手に情報がバレるのを避けてるのかな?


「篠原クン!変なこと言わないでね!」


「そりゃ言いませんよ……」


本当に分かってんのかな……


ま、いいか


別にこの子が変なこと言っても怒られるのは僕じゃないし


むしろ、僕らも予想していないような変なことを言って相手を混乱させてくれるかもしれないし


僕たちも戦いに参加して、相手に揺さぶりをかけていこう


直接倒すのは無理かもしれないけど、サポートだけなら何とかなるかもしれない


相手の動きを見ながら、要所要所で風や地面の向きを変える


ペースを乱す。そのことに集中して相手の行動を阻害するように風を変える


相手が嫌そうな顔をしているってことは、上手く行っているのかもしれないな


「おい!お前達!ここからしろ!」


お……これは……


「だってさ!篠原クン!」


「はい!分かりました!」


そうして僕らはその場を離れた


少し離れてから、そのまま帰ろうとする篠原クンの首元を掴む


「ちょつと!どこに行こうとしてるの!?」


「え?でも、帰るんですよね?」


やっぱりこの子には一から百まで説明しないといけないみたいだ


「あれは、『帰っていいよ』ってことじゃなくて、『別のルートから侵入して探れ』ってことなんだよ」


篠原クンは絶句している


「よくそんなところまで分かりますね」


「まあ、城崎クンとは結構長い付き合いだからね」


「長い付き合い?どういうことですか?」


そう聞いてくるが、残念ながらそれは秘密ということにしておこう


彼から話す許可が出るとも思えないし

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