人類戦線

さむほーん
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第六十話 交渉

公開日時: 2022年6月27日(月) 16:00
文字数:2,085

「……戻ってきたか」


神柱が向こうから戻ってきた


そんなに時間はかかっていないのか……と、言いたいところだが、あいつの行動は基本的に恐ろしく速いからな


なんとも言えないのが実情だ


「ねぇ、対処しなきゃいけないのってスナイパーっぽい人だけで良いんだよね?」


そう聞いてくる


「ああ。と言うより、他に誰が居たのか?」


それならばそいつについて少し話を聞きたいんだが……


「いや……ちょっとだけ不穏な空気を感じた……というか……」


歯切れの悪い様子で神柱が答える


「何だ?不安な要素が有ったのか?」


少し黙ってからこう答えた


「いや……なんか……どこに行っても見られてるような感覚だったんだよ……ねぇ、城崎。この建物の中に監視カメラとかはどのくらい有るの?」


監視カメラか……


「有るとは言っても常識の範囲内だぞ。基本的には廊下にしか無いし、どこに行っても見られている程の数では無い」


ただ、勘というのも案外馬鹿にできない


もしかすると、監視カメラに頼らない情報収集手段があるのかもしれないな


まあ、だとしても今できることはそんなに多くは無い


精々、相手に見られても良い範囲での行動を心掛けるくらいか……?


「あ、それと、スナイパーはちゃんと殺しておいたよ。これで良いんだよね?」


そう言って、一瞬消えたと思ったら、死体を持って帰ってきた


「ちょっとちょっと〜〜そんなにポンポン殺すとか言わないの。いざ平和になったときに戻れなくなるよ〜」


まあ、小松の意見も分からないでも無いが、今はそれよりも優先してやるべきことがある


「よし、離脱の前にやることがある」


二人ともなんのことだか分かっていないような目をしている


「ついてこい」


――――――――――――――――――――


そうして、俺たちは先程の所に戻ってきた


「それで……ここで何をするの?退却するんでしょ?」


神柱がそう聞いてくるが、俺は静かにするように手で示す


向こうには、敵のバケモノに加えて、それと交渉しているらしき奴が見えている


しかし、例の官房長官とは違う人ということはあのバケモノ用の人材なのか?


状況によっては引き入れたいが……


今話しかけるのは危険かもしれないな


「ねぇ……あれって……」


神柱がそう言うと、須斎も頷く


「ああ、間違いない。だ」


その口ぶりからすると、間違いは無さそうだ


俺から見ると、さっきの敵とは何か違う気もするが


まあ、実際に襲われた二人が言っているんだからそうなのだろう


「それで、どうするの?あいつを放っておいたら不味いと思うんだけど……」


「……そこまでなのか?」


やたら二人共警戒するが、そこまでのものなのか?


「多分なんだけど……あいつの周りでは装備が使えなくなると思う。須斎は効かなかった上に本人の調子も崩されたらしい」


本人に影響があるのか……


「あ、ちなみに僕は単に装備が使えなかっただけだったよ」


なるほど……個人差は有るが、その影響によっては退却にも影響が有る可能性も考えると……


相手がバケモノへの対処を終わらせてからにしたほうがいいな


「でも〜そんなに時間かからないみたいだよ〜。なんかもう雰囲気が終わりに近づいていってる、っていうか〜」


確かに、見てみると先程よりもバケモノの動きがゆっくりになっている


「ふぅ……なんとか失敗の埋め合わせはできた……と。でも、責任が……」


少しブヅブツ言っている


もし例の長官との関係が良好で無いなら、こちらに引き込む余地も生まれてくる


少し今のうちに話しかけるか


「おい!少し良いか?!」


相手は驚いたのか、こちらを勢い良く振り返る


「……なんですかー!」


安全のためか、距離を取りたいようだ


まあ、こちらと話してくれるのなら構わない


「大丈夫だ!今はこれ以上近づかない!」


相手を安心とは行かずとも、こちらに対しての警戒心を弱めるくらいにはしておきたい


「……おっけー!それで、用は何?!」


相手は立ち止まってこちらを伺う


「裏切るつもりは有るか?」


急に言われて驚いたのか、少しこちらを見つめてからこう返した


「いや……裏切るもなにも今の時点じゃあ仲間じゃ無いような……」


……か


これは以外と引き抜きは簡単かもしれないな


「えっと……城崎……もしかして……」


ああ、神柱。お前の想像している通りだ


「ならこう聞く。俺たちに協力する気は無いか?」


「……」


少なくとも、すぐさま話を断る程警戒している訳では無さそうだ


それなら、交渉を続ける意味は有りそうだ


「ねぇ……条件を聞きたいんだけど近寄りたくない。それにあんまり他人にこの話を聞かれたく無い。そんな時はどうすればいいか、考えが有る?」


どうやら、好意的に捉えてくれているようだ


それに、その連絡手段なら考えてある


俺はトランシーバーを支配してある地面の上で滑らせた


「……これ、だね」


相手が口元に持っていったのを確認してから、俺は話しかける


「声はかなり小さくても拾うようにしてあるから、そこまで声を大きくする必要は無いぞ」


「……分かった。それで、何か僕がそっちにつくことで得られるメリットは?」


「それについては、後で詳しく話したい。その方がそちらの要望にも答えやすいしな」


そいつは、考え込み始めた

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