今、僕らがいるのは教室の裏にある「授業準備室」と言うやつだ
普段はここを会議に使っている
監視・盗聴されていないかは城崎が毎日2回確認しているらしい
「毎日」っていうのは結構ハードワークだな
城崎さん、ありがとう
「で、聖。今回は何について話すんだ?」
ん?聖?
…………ああ、忘れかけてたけどこいつの本名は
城崎 聖だったな
まあ、いいか
どうせ名前で呼ぶことなんてほとんど無いし
「ああ、今回は学校を制圧する際に障害になるであろう的についてだ」
「誰?」
弘岡、もうちょっと言葉をたくさん使わないとうまく伝わらないぞ
「生徒副会長の時風 佐穂だってさ」
「「???……」」
そうなるよな
彼女の名前を思い出せた時点で僕は結構優秀だったんだな
「次はそいつなの?」
「まあ、落ち着け弘岡」
城崎はそう言って校内の見取り図を渡してきた
「これをよく見ろ」
あれ?この配置だと……
「これは……寮はもう制圧されてるんじゃないか?」
うちの学校に何故か存在する学生寮
その位置が2年校舎のすぐ隣なのだ
もし城崎が警戒する程の相手なのだとしたら真っ先に拠点になりやすい寮は取っておくだろう
寮なだけあってセキュリティがしっかりしているから守りやすいし
「ああ、だから寮と校舎のニ面作戦になってしまう」
ん?二面作戦?
「別に二面作戦にする必要は無いんじゃない?」
先に寮を攻撃すればいいんだから
「先に寮を攻撃すると、おそらく脱出されて2年校舎に戻られる。校舎を先に攻撃すると、寮から反撃される」
なるほど、葉狩の時と同じだな
「だから、多少不利でもニ面作戦しかない、と」
「そうだ、弘岡」
あ、そうだったら……
「だったら先に今配下においてる人たちの装備について情報を集めておいたほうがいいんじゃない?」
ニ面作戦だったら人数がいるだろうし
「それもそうだな、どうだ?聖?」
「まあ、それもいいんだが……」
ん?なにかあるのか?
弘岡はわかっているのか、こう答えた
「例えば、私達の場合はもう連携がかなりの練度になっている」
ふんふん
「ここに急に新しい人を入れるのは連携が崩れるから良くない、違う?」
あー、連携か
「それもあるが、俺が人数の追加に否定的なのはには別の理由がある」
え、なんだろう?
「かんたんな話、情報漏洩への対策だ」
「スパイ対策ってこと?」
「ああ」
なるほど、スパイか
じゃあ……
「なんで僕らは早い段階で信用したの?」
スパイ対策ならあまり仲間は増やしたくないはずだ
割と昔から一緒にいて、高校に入ってから城崎以外とまともに交流のない僕を信用したのはわかる
だが、それなら須斎や弘岡を信用したのは何故だ?
「まず神柱、お前の場合は分かるな」
「うん、僕が他の人との交流があんまりないからでしょ」
それはわかってるんだが
「須斎、弘岡、お前らの場合は大会などで高い成績を出している」
「そうだけど……」
「それがどんな影響があると言うんだ?」
むしろ、大会で高い成績を出していたら副会長と接する機会が増えそうなんだけど
「時風の支配は基本的には弱味を握ることによる恐怖政治だ。お前らの場合、その弱味が少ない」
それと大会成績になんの関係があるんだろう
「大会で高い成績を出すことでお前らの弱味を握っても簡単にはそれを使えなくなった、ということだ」
「まあ、私達のような人間に一番効くのは『部活を取り潰すぞ』だからな」
ん、でもその流れなら
「ねえ、城崎。その流れなら、いま時風の下に付いてる人の弱みほとんど無いんじゃない?」
ほとんどの人にとって【命の次に大切なもの】は社会的なもの、趣味などだろう
家族、という人もいるだろうが、時風が今すぐその家族のもとに行けるわけじゃない
社会的なものが大切なら、こういうふうに完全に世界が変わってしまっては意味が無いんじゃないか?
「冷静に考えられるやつなら、装備が降ってきた時点で時風から離れているだろう」
じゃあ何で
「ほとんどのやつは長い間時風に従っていたせいでそれ以外の選択肢を考えられなくなっているんだろう。」
「思考停止というやつ?」
「そうだ、弘岡」
なるほど
それなら次に言うこともなんとなく分かったぞ
「つまり、そいつらを寝返らせれば大分攻撃が楽になるんだな」
「そうだ」
ん?言ってて違和感を覚えたんだが……
「でも、今回の作戦ではあんまり味方は増やさないって言ってなかった?」
リスクが大きいとか作戦が漏れたら困るとか
「味方は増やさない。言うとすれば敵の敵を増やす、のほうが近いな」
つまり、作戦はあんまり伝えない、ってことかな
「そしてそいつらは一連の作戦が終わったら自由な行動を許す、といったところか」
「待て、聖。仲間に引き入れなくていいのか?」
「いや、それでいい」
今度は弘岡が答えた
なんだか今日はやけに弘岡と城崎の息が合うな
事前に打ち合わせでもしていたかのように
「むやみに仲間を増やすとリスクが大きいのは事実」
これには須斎もうまく言葉を返せないようだ
リスクを背負わないと出せない結果もあるが……
まあ、これは冒すべきリスクじゃないな
城崎が今日のまとめかのように口を開く
「まあ、今回で一つだけ言っておきたいことがある」
「敵の敵を増やすことと味方を増やすことはまるで難易度が違う、ということだ」
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