人類戦線

さむほーん
さむほーん

第十五話 徘徊

公開日時: 2022年2月12日(土) 16:00
文字数:2,113

「……ここは思ったよりも宿泊施設がしっかりしてるな。それで、生物実験室は何処だ?」


「千尋姐さん……部屋に入って荷物も片付けてないのにいきなり実験室に行こうとしないでよ……」


いつも通りと言えばいいのか、本当に興味のあること以外は適当な人だな……


でも、流石に持ってきた荷物の整理くらいしてもらわないと困る


今のコレだとベッドすら何処にあるか分かんないぞ……


「じゃあ、折角だし私は校内の設備を見て回って来るよ。スーツケースは机の下にでも置いておいてくれ」


「え?ちょっと!」


ベッド探しに気を取られてたらその間に逃げられた


逃げ足は衰えてないみたいだ


まぁ、一応大人なんだし放置しておいても問題は無いでしょ


それより、机の下ってどこだろう?


この瓦礫の山から机を探せってことじゃないよね?


「……頑張るか」


――――――――――――――――――


この学校は随分と設備がしっかりしているな


大学級とは言わないがいわゆるSSHスーパーサイエンスハイスクールくらいの設備はあるんじゃないか?


「以外と見て回る所が多いな」


これは二日くらいに分けたほうがいいかもしれない


まあ、そうしたら見て回る前に研究所に帰ることになるかもしれないが


お、これは良いんじゃないか?


科学実験室の設備は見たところ悪くなさそうだ


科学講義室に遠い場所にあるのが少し気になるが……


「さて、次はどこに行こうか」


利用する機会が有りそうな保健室にでも行こうか


それとも珍しく外にでも出てみるか


……よし、中庭に行こう


室内はその後でも良いだろう


――――――――――――――――――――


なるほど、中庭は庭と言うよりは園芸部の農場の様になっているのか


研究室などでよくある実験農場やシャーレ内で育てるものとは随分様子が違うな


「違う!このキャベツがここに植えてある理由は!」


何やら揉めていそうだ


怒られている方は……えっと……神柱君だな


どうしようか……助け舟を出した方が良いんだろうか……


「ん。長崎さん」


後ろから声がした


「えっと……どちら様かな?」


見たこともない小柄な少女がそこには立っていた


記憶の片隅にも存在しない


今日帰って来た人なのか?


それより、何か資料をこちらに手渡そうとしているようだが……


「これは……?」


「城崎聖の身体データ。多能性幹細胞にする元の細胞は後日研究所で採るけどそれ以外のデータとかは今のうちに渡しておくって」


おお、そうなのか!


「ありがとう。時間が短縮できるのはこちらとしても願ってもないことだ」


治験期間はある程度取らないといけないが、それ以外の時間は減らせるだけ減らしたい


それに、まだ施設を見ている途中だから何とも言えないが、一通り見終わったら暇になる気がしていた


いくら設備が整っているとはいえ今までのデータも何も持ってこれていないなら研究のしようがない


「ところで、彼らは何をしているんだい?」


私は向こうの方で揉めているらしい二人を指さしてそう言った


「あれは小松芳枝。野菜のことになると人が変わる。栽培技術は高い」


栽培技術か……

あまり植物関連は知らないから何とも言えないが、どのくらいのものなんだろうか


この畑を見ると相当高そうには見えるが……


まあ、素人目でいくら見ても変わらないか


あ、向こうから身体データを渡されたしこちらもデータを渡しておこう


えっと……確かここにあったはず……


「じゃあこれを持っておいてくれ」


「……これは?」


「これはうちの研究所が治験の際に対象者に渡している契約書類……というよりはガイドラインみたいなものだ」


いつもはデータ等を取り終えて準備が整ってから渡しているが、先にデータを渡されたし


「……これを私に渡してどうするの?」


……あぁ!なるほど!

誤解を避けるためにちゃんと口に出して言ってほしいタイプの人か


「城崎君に渡しておいてくれ。事前に確認は取っておきたいんだ」


すると、了承したのか少女はその書類を懐にしまった


ところで、これから私はどうしようか……


次はどこを見に行けば良いんだろう?


やっぱりもう部屋に帰ろうか


「いや、その前に生物室の方に寄っていこう」


私にとっては一番気になるところでもある


――――――――――――――――――


あ、どっか行っちゃった……


こんなんなら向こうが気付くのを待たずに早めに助けを求めておくんだった


「ほら!!手が止まってる!!」


この状況を一人で切り抜けろなんて酷すぎる


あ、あそこ居るのは弘岡じゃないか


弘岡さん……いや、様!頼むから!少しで良いから加勢してくれ!


弘岡美優はこちらを少しだけ見てから何処か遠くへ歩いて行った


「よそ見しない!!そんなんじゃ野菜に愛情が伝わらないでしょ!!」


「あ、すみません……」


――――――――――――――――――


よし、机が見えるくらいには片付いたか


三十分を以上かけてこれか……


片付けの腕が鈍っちゃったかな?


よし、一通り片付いたから姐さんのことを探しにいこう


本人に来てもらわないと残りの荷物をどこに置けばいいのかが全くわからん


「どこ行ったか分かんないけど、多分実験室とかそのへんでしょ」


しかし、困ったことになった


僕は文系だから理系科目の実験室が何処にあるのかは全く分からない


まあ、姐さんがちゃんと目的地に辿り着いている保証もないけど


「どうしよっかな〜?」

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