106. 交響曲(シンフォニー) ~アリーゼside~
ユトナ聖橋の真ん中でランバート王国の軍勢と対峙することになった私たちはレオンハルト=ランバートに賭けを持ち込むことにしたのです。それはマルセナが処刑を止めるか止めないか。私共々の命を賭けたものなのです。
緊張感に包まれているのです。ミルディはさっきから私のローブを握りしめているのです。でも私が一番気になるのはレオンハルトも強く拳を握りしめていることなのです。
「一つ聞いてもいいのです?」
「なんだ?」
「ライアン様はあなたの弟なのです。処刑されてもいいのですか?」
「いいわけなかろう。しかしランバート王国が発展していくにはセントリン王国の侵略が必要だ。あんな国王でも私の父なのだ。私はランバート王国のためなら実の弟の命だろうと捨てる覚悟はある。」
正義感が強いのです。だからこそ私たちの提案に乗ってきたのでしょうね。本当は止めてほしいのかも知れないのですね。そんな時ミルディが私に話しかけてくる。
「あのさアリーゼ。なんでこんなこと思いついたの?レオンハルト様に賭けをしてみるなんて、普通思いつかないよ?」
「それは私が間違いなく勝つ可能性があるからなのですよ」
「えっ?それって…」
ミルディは驚いているようです。そう、私は勝てる見込みがあるから提案したのです。まあ確実ではないのですけどね。
どのくらい時間がたっただろうかまだ公開処刑の結果はわからない。レオンハルトは焦りを募らせていた。相変わらずその拳を強く握りしめている。
「レオンハルト王子」
「なんだ?」
「きっとあなたにもいい知らせがくるのですよ。大聖女ディアナ様は信じるものの味方なのです!」
この一言を聞いたレオンハルトは少し微笑んだように見えた。そしてその時だった。ついにその瞬間が訪れる。ランバート王国の兵士がレオンハルトの元に走ってくるのです。緊張感が辺りを包む。
「伝令ー!!伝令ー!!」
「どうなった!?」
私はその兵士の結果を聞くまでもなく微笑んだ。
「アリーゼなんでこんな時に笑ってるの!?」
「それはですね。見てなのです。ミルディ。通信魔法具が光っているのですよ?」
そういうとミルディは通信魔法具を取り出し若干回復した魔力で通信をつなぐ。
《聞こえますか!?》
「ソフィア!?あっ……うん。聞こえてる!!」
そしてミルディも微笑む。その通信魔法具の向こうから私とミルディにランバート王国の住民の歓声が聞こえる。その声が全てを答えてくれていた。
《マルセナ様が処刑を止めたんです!みんな無事です!》
「本当!?良かった!」
そのソフィアの言葉を聞いてミルディが後ろを向き手でみんなにOKの合図をする。するとこちらも通信魔法具から聞こえる歓声に負けないくらい大きな歓声が上がるのです。
「そうか……処刑は止められたのだな。私の負けか……」
レオンハルトは小さくそう呟き空を見上げる。その顔は安堵の顔だったのです。そして通信魔法具から怒ったロゼッタ様が叫んでいるのが聞こえるのです。
《おいアリーゼ!!お主がリスティ=ローレンを呼んだのじゃろ!!一言言っておくのじゃ!!勝手なことしおって!!》
《落ち着いて師匠!?》
「どういう事アリーゼ?」
「ミルディ。通信を切っていいのです。」
そういうとミルディは通信を切る。そして私はレオンハルト王子に話す。
「私の勝ちなのです。」
「そのようだな。」
「素直じゃないのです。本当は止めてほしかったのですよね?」
「ふっ。どうかな。もうセントリン王国へは関わらん。皆の者帰るぞ!後処理が必要だろうからな。」
そういってレオンハルトは軍勢を率いて王都へ戻っていく。良かったのです。これで平和なのです。
「まったくアリーゼは。リスティ様に頼んでるならそう言ってよ。ずる賢いんだから。」
「せめて用意周到と言ってほしいのです。それにもしかしたら来ない可能性もあったのです。」
「そうだけどさ…」
ミルディは納得していないようなのです。まあ確かにちょっとずるかったかもなのです。でも仕方ないのです。これが最善だったのです。
「ミルディ。そんなことより。早くみんなのところに行くのです!私たちが戦争を止めたのです!」
「うん!そうだあたしたちが止めたんだ!」
私は聖女として、ミルディは魔法鍛冶師としてこの戦争を止めることに成功したのです。これは歴史に残る快挙なのですよ?私たちは二人手を取り合ってみんなのところに走って行く。
「みんな戦争は起きないのです!安心するといいのです!」
私たちの歓喜の叫び声は、どこまでも響き渡る。
「アリーゼ。あのさ……」
「なんですか?」
「やっぱりあたし、アリーゼと出会えて良かったよ。これからの旅もよろしく!」
「私もなのです。ミルディ。」
こうして、二人の聖女の活躍によりセントリン王国とランバート王国の戦争は終わりを告げることになる。
アリーゼ=ホーリーロックは今日という日を忘れない。自分が信じたみんなと共に平和に導いたことを。
「聖痕」が消えた。
聖魔法が使えない。
それでも間違いなくそこには人を救い、人を動かす「聖女」がいたのだ。
そう彼女は「あなたは何者?」と聞かれれば、きっとこう言うだろう。
『ただの聖女なのです。』と。
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