9. 常闇の森の魔女
そして次の日。私は泣きそうなのです…。乗り合い馬車に乗ろうとした時、いや昨日から薄々は気づいていたのです。そう私はまた「資金」がない。だから馬車に乗ることができなかったのです。
「ぐすっ…海鮮食べれないのです…。」
「いや子供かあんたは。あたしも自分の分しかないし、稼ぐしかないんじゃない?ほらアリーゼって何でもできそうじゃん!たまに良く分からないけど…」
私はただの聖女なのです。なんでもできるわけじゃないですよ?そういうことじゃありませんからね? これはギルドで日雇いの依頼でも受けるしかなさそうなのですね。そう思いながら私はギルドに向かうのであった。
そして、ギルドについた私たちは受付に並ぶこともなくすぐにクエストボードの前に立つことができた。基本的に朝早くに来る人はそんなにいないようなのです。掲示板にはたくさんの紙が張り出されていますね……。沢山ありすぎてどれを受けたらいいか分からないのです……。
「どれを受ければいいのですかね?」
「あたしも来たことないし…なんか簡単なのでいいんじゃない?」
簡単とは言ってもどのくらいのレベルなのか分かりませんよね。私は初心者用のゴブリン退治を受けることにしました。これならあまり強くなくていいはずなんですよね。初心者用なら駆け出し冒険者でも問題ないと本に書いてありましたし。まぁいきなり強い魔物と戦えと言われたら困りますしね。
早速その依頼書を持ってカウンターに行こうとしたらミルディが私の腕を掴む。
「待て待て!アリーゼ戦えるの!?ゴブリン退治なんて……。聖女の聖魔法も使えないんでしょ?あたしは戦えないからね?」
「ゴブリンの倒しかたなら本で読んだのです!任せるのです!」
「なんでそんなに自信があるかわからないけどさ……本の知識があるなら素材集めの方がよくない?」
うーん、確かに素材を集める方がいいかもしれないのです。
でもお金を貯めないとご飯を食べれなくなるのです。それは避けたいところなのですよ。それに今日滞在するための宿代も必要なのです。とりあえずゴブリンの依頼書を戻しに行きましょう。
「これとかいいんじゃない?フルア草なら日の当たらない森の奥とかに生えてるし、簡単に見つけられそうだけど。」
「ふむ。金額も良さそうなのです。」
こんな簡単な依頼の割に少し高額のような気もしますが、海鮮のためにはそんなこと言ってられないのです!私たち2人は依頼書を手に取り、受付に行って手続きをしてもらいました。これで準備完了なのです。私が出発しようとしていると受付嬢のお姉さんが私とミルディに念を押してくる。
「そうだ、常闇の森には魔女がいると言う噂があるから気をつけてね。」
「へぇ…魔女なんかいるんだ?」
「魔女って毒を盛ったり呪ったりするのですよね!?本に書いてあったのです!怖いのです…。死にたくないのです!」
「とりあえずアリーゼ落ち着いて。」
その常闇の森にいると言われている魔女に会わないように願うのです!私たちは冒険者ギルドを出て、街の入り口に向かいました。そこから街の外に出られるらしいのです。門番さんに挨拶して街を出ることにしました。
ここからさらに、森の方に行くみたいなので街道から外れていくようです。森の中に入っていくとだんだん暗くなっていきます。でもちゃんと道があるので迷うことは無いと思いますよ。
しばらく歩くと開けた場所がありました。ここが目的地の森かもしれませんね。周りを見ると木の間にフルア草らしきものがチラホラ見えている気がするのです。本で見たことあるので間違いないのです!
「あったのですミルディ。早く採取して帰るのです…ん。ミルディ?」
「…家だ。あんなところに家がある。」
ミルディが指を指す方向には確かに家と呼べるかはいささか不明だが人が住んでいそうな小屋がある。
煙突からは煙が出てるから誰かいるのです? 近づいてみるとそこには1人の女の子がいた。歳は私やミルディより下に見えるけど、すごく可愛い子だった。髪の色は薄い水色で腰まで伸びており、サラサラである。顔立ちも整っており、将来美人になること間違いなしだろう。
そんな子がどうしてここにいるのでしょう? その子はこちらを見て驚いている様子だったが、すぐに何か納得したように首をうんうんと縦に振る。
「ほう。まさかワシの結界を抜けてくるとはのう。お主たち聖女か?」
「ワシ?おばあちゃんなのです!?」
「いや。違うでしょアリーゼ。そういう喋り方なんでしょ?どう見てもあたしより若いし。」
ワシって言う人初めて会ったのです。それとも年寄りっぽい話し方をするのが若い子の間で流行っているのですか? 私が混乱している間にも少女の口元はニヤリと笑みを浮かべていた。
「ほう……。「聖痕」を失ったのか……通りでワシの結界を抜けて……」
「なぜそれを知ってるのです!?」
しかしその少女は次の瞬間には先程の表情が嘘のように消え去り無邪気に笑う。そのギャップについていけず更に私は困惑してしまったのです。
「愉快愉快じゃ。ワシはこの常闇の森の魔女じゃ。」
「魔女?この幼女が?冗談きついんだけど…。」
「誰が幼女じゃ!」
ミルディの言葉に怒った魔女(?)が杖を取り出してミルディに向かって振り下ろす。しかしミルディはそれをひょいと避ける。
「全く失礼な小娘じゃ。ワシはロゼッタ=ロズウェル。この名前を聞けば少しくらいはお主たちでもわかるじゃろ?」
「魔女ロゼッタ!?あの竜殺しの魔女の!?極悪非道の魔女の!?」
「本で読んだことあるのです!凄い悪い魔女なのです!怖いのです!」
ロゼッタ=ロズウェル。あの気高き竜でさえ凶悪な魔法で一捻りしたと言われている人物なのです…しかも極悪非道の。教会でも語られている伝説の大聖女ディアナ様の天敵。それが私の目の前にいるなんて信じられないのです! まぁ魔女という存在自体が伝説みたいなものですからね。しかも目の前にいるのは明らかに幼い少女なのです。
「まぁ良い。せっかくだから少し仕事を頼みたいのじゃ。そこの赤い髪の。魔法鍛冶じゃろ?ワシの道具を直してほしい。もちろん金は払う。どうじゃ?」
「まぁ……あたしは仕事なら受けるよもちろん。いいよねアリーゼ?」
「もちろんなのです。ミルディの邪魔はしないのです。」
「あとそこの聖女のお嬢ちゃんに話しもあるからの…まぁ中に入るのじゃ」
はっ!もしかして呪いをかけられてしまうのです!?それか毒!?私は恐る恐る家に入ります。すると中にはさっきまでの木々に囲まれた空間の殺風景とは違い、暖炉に火がついていてとても暖かい空間になっていたのです。そしてテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいます。そういえばお腹すきました……。
私とミルディは常闇の森の魔女、あの極悪非道の伝説の魔女ロゼッタ=ロズウェルに招かれるかたちで家の中に入るのでした。
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