59. 異変
魔法都市ルナノワールの西にあるアルスメルタの街に魔物の軍勢が現れたという情報を聞いて私たちは馬車で街に急ぐことにしたのです。こうも魔物討伐ばかりだと心配になるのです。でもロゼッタ様もフィオナも凄く強くなっているのです。それと今回は聖女リスティ様も一緒なので安心なのです。
アルスメルタの街へ向かう馬車の中でロゼッタ様が真面目な顔をして私に話しかけてくるのです。何かありましたかね?
「アリーゼ。一つ言っておくぞ」
「何ですかロゼッタ様?」
「あの四聖女リスティ=ローレンには気をつけるのじゃ。あやつはお前が「聖痕」が消え、聖魔法を使えないことを知っている。そんな口振りじゃった。」
私はその言葉を聞いた時少し動揺してしまいました。どうしてロゼッタ様はそんなことを言ったんでしょうか。でもロゼッタ様は続いて言うのです。
「だから聖女であるからと言って信用するでないぞ。それに聖女の使命は世界の秩序を守るのものと言っておったが、それだって怪しいものじゃ。ワシはあやつら聖エルンスト、四聖女は信用できないと思っておる。」
「師匠……」
私は聖女リスティ様にそこまで警戒する必要あるのかと思いました。でもあの時ソルファス王国で助けてくれたのは事実なのです。それにロゼッタ様はあの大聖女ディアナ様の親友のはず……もしかして過去に何かあったのですかね?
「……もしかしたらワシと同じなのかも知れんの。」
「えっ同じなのです?」
「いやこっちの話じゃ。とりあえず警戒はしておくのじゃ」
そういうとロゼッタ様はそれ以上は何も言いませんでした。それからしばらくして私たちはアルスメルタの街に到着しました。何とか騎士団やギルド冒険者が魔物の軍勢を食い止めてくれておりまだ被害はそこまで出ていないのです。でもすぐそこまで迫る魔物の恐怖に街の人々は慌てて逃げ惑っています。
「何とか間に合ったのじゃ。さて…どうするかの?聖女リスティ?」
「まずは街の住人の不安を取り除きましょう。あなた様は魔女なのですよね?少しの間、前線に加勢して魔物をお願いできますか?」
「……フィオナ、アリーゼを頼むのじゃ」
「うん。わかった師匠」
そう言ってロゼッタ様は前線に行く。そしてリスティ様はゆっくり歩きながら人々に近寄りました。人々は突然現れた四聖女の姿を見て驚きつつも助かったという思いが強く感謝の声を上げているみたいです。そして……聖女リスティ様の言葉を聞きました。
「恐れないでください!私は聖エルンストの四聖女リスティ=ローレン!私が皆様を必ず救います!どうか落ち着いてください!」
街の人々の表情を見て私は本当に大丈夫なんだと思いホッとした気持ちになりました。そしてリスティ様が聖魔法で結界を張る、それはこの前のものとは違う結界なのです。そして一言小さな声でリスティ様が呟いたのが私に聞こえたのです。
「さぁ……見せて本物かどうかを」
すると……。ドクンッ!!!!!!!私の胸が熱くなります。熱い……身体中に激痛が走ります。息ができません……目の前が見えなくなって……誰か……助けてください……。
「うっ…ぅぅ…」
「アリーゼ様?…アリーゼ様!?」
バタッ! 私が倒れた音と同時にフィオナの声が聞こえたような気がしますが私の意識はそのまま遠退いて行きました。
目を覚ますと見覚えのない天井が見える。あれ?ここはどこでしょう?ベッドで寝てるみたいなのです。辺りを見回すとどうやら個室のようなのです。
一体ここは……確か……そうです。アルスメルタの街についてリスティ様が聖魔法を使った時に突然心臓が激しく痛み出して苦しくて倒れてしまったはずなのです。
まさか!?病気になったとかじゃないのです!? 私が慌てるとガチャリという音がして一人の女性が入って来ました。聖女リスティ様なのです!
「あら、聖女アリーゼ。目が覚めたんですね」
「あ、はいなのです。すいません迷惑をかけて……」
良かったのです。でもこの人を見た瞬間身体中を何かが駆け巡るのです。怖い?いえ……嫌な感じがしました。なぜ?こんなに緊張するのは初めてなのです。
リスティ様は私を見るなり笑顔を浮かべる。でもその瞳はとても冷たく感じるのです。まるでそこに存在しないものを見るように見つめられてるような錯覚に陥りそうになる。そんな時だったのです。
ズキンッ!!!またあの時の発作が起きる。苦しいのです……。何だかもう頭がぐちゃぐちゃになって来るのです。そして私は気を失うのです。その時リスティ様が言う。
「やっぱりあなたには資格があるわ。もちろんこの事はまだ報告しませんよ。これからもこの世界を救う聖女として頑張ってくださいね。ふふっ」
その声は私の耳には届かなかったのです。
どのくらい気を失っていたのか…私が目が醒めると心配そうな顔をしたフィオナとロゼッタ様が視界に入るのです。
「おお、目覚めたのか」
「よかったぁ。ボク心配で…」
二人とも無事だったのですが、私はまだ胸を抑えたまま動けない。
「あの…リスティ様は?」
「えっ聖女リスティ様は街の人々への慰問を終えて、すぐに次の街に発たれたけど?なんでも今日は忙しいみたい。」
「そ、そうなのですか…」
何だか……安心したので身体中の力が抜ける。
「それよりお主大丈夫か?随分顔色が悪いぞ?フィオナ悪いのじゃが街に行って飲み物を買ってきてくれぬか?」
「あっうん。わかった!」
フィオナは急いで部屋を出て行く。あ~いくらなんでも分かるのです。ロゼッタ様は私に話があるのですね。ロゼッタ様はベッドの横にある椅子に腰かける。
「……まだ痛むのか?」
「今は大丈夫なのです。この胸の痛み…ロゼッタ様何か知っているのです!?」
「落ち着くのじゃ……まずは深呼吸をするのじゃ」
私は言われた通りゆっくりと大きく息を吸い込むと身体に空気が満たされていく。それを繰り返していると少しだけ落ち着いて来たのです。するとロゼッタ様が話し始める。
「お主の異変で確信したのじゃ。おそらくそれは「共鳴」じゃ。聖女リスティの聖魔法にお主の「聖痕」が反応したのじゃろ。」
「えっ?私は「聖痕」が消えて……」
そうなのです。身体のどこを探しても「聖痕」は見つからないのです。しかも私は今でも聖魔法が使えないのです。いや普通に魔力すらないのです。それに「共鳴」って何なのです?
「……消えたのではない。一時的に見えなくなったのじゃろう。」
見えなくなった?私はロゼッタ様の言葉が理解出来なかったのです。
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