104. 協奏曲(コンチェルト) ~アリーゼside~
遠くに見える黒の軍勢が段々大きくなりこちらに向かってくる。私はそれでも前に歩みを止めることなく進み続けるのです。そしてユトナ聖橋の真ん中で対峙することになった。
ランバートの軍勢の先頭はやはりこの人でしたか。レオンハルト=ランバート第一王子。この人は素晴らしい武人で頭もいい。どんなに不利な状況でも勝機を見出だす素晴らしい方。だから私は小細工なしでレオンハルト=ランバートに挑むのです。
「止まるのです!」
「お前は確か…カトリーナ教会の聖女アリーゼ=ホーリーロックだな。まさか我が軍勢を止めるつもりか?」
「はいなのです。これ以上先にはいかせないのです。」
「ふざけるのも大概にしろ。もうセントリン王国への侵略はほぼ決まっている。邪魔をするなら殺すだけだ。」
そう言ってレオンハルト様は剣を抜きました。私もそれに応じてロッドを握りしめるのです。そしてこう言い放つ。
「大聖女ディアナ様はおっしゃいました。無駄な争いは悲しみを生むだけなのです。やめるです!」
「無駄な争いをするつもりはない。これは必要な争いだ」
あなたはそういうと思っていたのです。だから私は聖女としてやるべきことをするのです。聖魔法なんか使えなくても関係ないのです。私は意識を深いところまで潜る。ここで時間を稼ぎ説得する方法を探す。そして一冊の本を見つけそのページをめくり、今の状況に当てはめてみる。
【絶対的不利の状況で賭けに持ち込む方法論~伝説の交渉人~】
1.レオンハルトに決闘を申し込む(受けてくれるとは限らない)
2.聖女として賭けを提案する。(マルセナが処刑を止めるかどうか)
3.処刑が行われるか、行わないか。→(行った場合自分を殺すことを提示する)
なるほどなのです。今の私なら必ずできるのです。そして私はそれを実践する。
「あなたは素晴らしい武人です。だからこそ提案があるのです。聖女として」
「提案だと?まぁいい。話しは聞こう。」
そういうと私の話を聞いてくれるようで、レオンハルトは構えていた剣を納めてくれたのです。私は安心して胸を撫で下ろす。そしてレオンハルトに自分の考えを伝えることにしたのです。大丈夫。この人の性格なら、まだ時間は稼げるのです。
「私と賭けをしませんか?」
「賭けだと?」
「はいなのです。」
私は真っ直ぐレオンハルトの目を見る。その目には怒りや悲しみと言った感情はなく、ただ強い意志を感じるのです。だから私は賭けに出る。この人に勝つための賭けに。
「今王都では公開処刑が行われているのです。もちろんそれをマルセナが止めようとしていることはあなたならわかっているのです。」
「だろうな。それがどうした?」
「マルセナが処刑を止めた場合、勝手な公開処刑をしたランバート王国は終わり。あなたたちはセントリン王国に攻める必要はなくなるのです。だってあなたには大勢の命を預かっている責任があるのです。無駄な戦いはしたくない。そうなのですね?」
私の言葉にレオンハルトは何も言わない。だけど私は言葉を紡ぎ続ける。これが最後の時間稼ぎになるのです。ここで止められなければ私は死ぬことになるでしょう。それだけは避けなければいけないのです。私は全力で話しを続ける。
「そしてもし処刑が行われた場合。私を斬り、この先に進むといいのです。」
「お前1人の命でか?」
「ならあたしも斬ればいい!あたしはアリーゼを信じるから」
「1人増えたところで変わらん。いいからそこを大人しくどけ!命は助けてやる」
そんな言葉では怯まないのです!私は聖女なのですから!その時、私たちの後ろから大きな声が聞こえてくる。
「待ってくれ聖女アリーゼ様!!オレたちもいるぞ!シルクナートのみんなもいる!」
「アルグラッドさん!?」
「おう!オレたちルベルタのみんなもいるぜ!」
「父さん!?親方…」
なんとそこにはセントリン王国の騎士団を筆頭に大勢の人がいたのです。アルグラッドさん、ミーナさん、ブラック親方、リオンさん。みんなが来てくれたのです。そしてカトリーナ教会のみんなも。
「ここで足止めしようとしたんだが先に聖女様がいてビックリしたよ。元気そうだな。」
「はい!元気なのです!」
「おう!ミルディ魔法鍛冶屋の生き様みせてやるぞ!」
「うん!」
本当に心強い味方が増えたのです。これでなんとかなるかもしれない。そう思った時、レオンハルトが話し始める。
「一つ聞こう!お前たちはそこのアリーゼ=ホーリーロックに自分の命を預けるということでいいのだな!?」
「あぁ。オレたちの命は聖女様に預けた!」
「同じくだ!」
「オレたちも同じだ!」
それを聞いたレオンハルト様は少し考え込むように俯いた後、顔を上げて宣言する。それはまるで自分自身に言い聞かせるような言葉だった。その目は決意に満ちているように見えたのです。
「いいだろう。聖女アリーゼ、その賭けに乗ろう。しかし条件がある。」
「条件なのです?」
「もし処刑が行われた場合。お前がこの剣でお前を信じたあの民を自分の手で全員殺せ。お前は絶望と共にオレが殺してやる。」
レオンハルトは真剣な表情で私を見つめる。その瞳は嘘偽りのない真っ直ぐなものだった。私は一呼吸置いてロッドを握りしめながらレオンハルトに向かって真っ直ぐな目で返事をする。
「分かったのです。」
「お前には恐怖心と言うものがないのか?」
「失礼なのです。あるのです。でも絶対にマルセナは処刑を止めるのです。」
私はそうレオンハルトに言う。信じているのです。絶対に立ち止まらないのです。私は聖女なのですから!
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