3. 魔法鍛冶屋の夢
ふぅ。満腹なのです。ミルディも結局は色々言っていたけど、美味しくお肉を頬張っていたので良かったです!というかなんでこんなところで倒れていたんですかね?
「そういえばミルディはなんでこんなところで倒れていたのです?」
「え。ああ……恥ずかしい話なんだけどさ、この森のロウム石を採取してたら夢中になっちゃってさ。いつの間にかポイズンビートルに囲まれてて何匹か倒したんだけど、最後に刺されちゃって。あはは」
「なるほどなのです。それなら次からは角が赤いポイズンビートルを狙うといいのです。そのポイズンビートルが群れを構成しているのです。だから倒せば逃げていくのですよ。」
「へぇ~……あっ。これも本の知識?」
「もちろんなのです。」
私は自慢気にミルディに伝える。また人助けをしたのですぱり聖女はこうでないと。ミルディはあまり納得しているような様子ではないのですが……するとミルディが私に質問してくる。
「そう言えばアリーゼはなんでここに?」
「私はルベルタに向かう途中だったのです。カトリーナ教会を追い出されてしまったのです。」
「え。追い出された?」
「はい。聖女の証である「聖痕」が消えてしまったのです。聖魔法が使えないのだから私は聖女じゃないと。しかも「異端の魔女」呼ばわりだったのです!」
私がそういうとミルディは俯いて黙ってしまったのです。あれ?何かまずかったですかね……。少し不安になってくると突然顔を上げて真剣な表情になる。そして口を開く。
「そっか。大変だったんだね。アリーゼが聖女かどうかは関係なしに、あたしを助けてくれてありがとう。」
そう言って笑顔を私にくれる。なんだか照れくさいけど悪くない気分なのです。でも、今思い出したけど私お金持ってなかった気がするのです!?これからどうしよう……。
まぁそんなことを考えても仕方ないのです!旅は風のように気ままに。そう昔読んだ本に書いてあったのです。
「さて。そろそろ行くのです。」
「あっ。あのさアリーゼ。行く当てあるの?良かったら今日はあたしのうちに来ない?助けてもらったし。」
「いいのですか?」
「もちろん。それじゃルベルタに行こうか。」
ここは多少強引だけども、誰かを助けて、ご馳走していただくしか無いみたいなのです!!って思ってたのに、泊まらせてもらえるなんてこれは予想以上なのです。大聖女ディアナ様が見てくれているんですね!ありがとうなのです!
こうしてルベルタに向かって歩き始めると分かれ道にぶつかる。
「えい!なのです。……右です!」
「ちょっとちょっと!ルベルタは左よ?というかもしかしてアリーゼ、カトリーナ教会からずっとこの方法で来たの!?」
「はい。間違いなく本に書いてあったのですけど?」
「はぁ…そりゃ何時間も森を歩くわけだよ。あのねアリーゼ……」
本の通りの方法が違うことをミルディが教えてくれたのです。本来なら20分程度でルベルタに着くことを聞いてとても驚いたのです!感心しました。ミルディもまた博識なのですね。
◇◇◇
しばらく歩くとルベルタにたどり着く。ミルディの家は魔法鍛冶屋さんと言っていたので、あの煙が出ている赤い屋根のお店ですかね?私はそれからミルディに案内されお店に着くと中に入る。
店内には色々な武器や防具が飾られている。どれも迫力があってカッコイイのです。すると奥の部屋へと案内される。そこには机に向かって作業をしている、職人さんがいた。
「ただいま!」
「おう!ミルディか。遅かったな心配したぞ」
「親方。いや実はさ……」
ミルディは森であった事を親方さんに話している、親方さんってことはミルディのお父様ですよね。私はそれを後ろの方から見ていたのだけど、ふとあることに気づく。
それは作業場にある剣の柄の部分だけ白い。不思議に思いながら見ているとその視線を感じたのかこちらを向いてきた。
そして私のことを見て驚いた顔をして近寄ってくる。
「あれ?あなたは聖女アリーゼ様!?」
「はい。私をご存じなのですか?」
「以前アリーゼ様に母の病気を治していただいたんですよ。その節は本当にありがとうございました。」
そうだったのですね。定期巡礼の時に救った方でしたか。でも、こうやって感謝されるのは凄く嬉しいのです。それにしてもここに置いてある剣は全部白かったのです。そんなことを考えていると、 カランコロン とドアに付いてる鈴が鳴る。
入って来た人は女性。それもすごい美人さんなのです! 腰まで伸びた綺麗な金髪に青い瞳。目鼻立ちが整っていてまるで人形のようなのです。
「依頼してる騎士団への奉納の剣はいかがですの?」
「型は出来上がっているので、あとは鋼細工の部分だけなんですが……少し時間がかかりそうです。」
「納期に間に合うんですの!?困りますわ!」
親方さんがその女性に現状を説明をしている。私はミルディに尋ねてみる。
「ミルディあの方は?」
「シュルツ公爵令嬢のマリー様よ。騎士団に奉納する剣の依頼をうちの魔法鍛冶屋が受けてるの。」
「納期が遅れているのですか?」
「うん。このままならね……。どうしても剣の柄に入れる鋼細工がうまくいかないの。堅すぎてうまく描けなかったり、柔らかすぎて 思ったように描けなかったり。」
だから作業場にある剣の柄の部分だけ白いのですね……。鋼細工か……。
「とりあえず納期はあと3日後ですわよ!お願いしますわね!」
そういうとマリー令嬢はお店を出ていきました。長い沈黙…気まずいのです。でもその空気を破ったのはミルディでした。
「はいはい!仕事に戻った戻った!ねぇアリーゼ。せっかくだし倉庫の武器庫を見てみない?」
「はい!是非見せてほしいのです!!」
「それじゃこっちに来て」
私はミルディについて行くと工房の奥の倉庫に連れて行ってもらう。そこにはたくさんの種類の武器があるのです。私のロッドもあるのですかね?
ふと倉庫を見渡すとそこには一本の歪な形の武器と呼ぶにはほど遠い剣がある。
「ああ……それはあたしが幼い頃に初めて造った剣なんだ。」
「初めて造った…」
私はその剣を見て、まるでミルディの想いが分かるような、何か惹かれるものを感じたのです。
「あたしね夢があるんだ。この世界のどこかにある「賢者の石」を見つけて、あたしだけの最強の魔法武器を造るの!本当は父さんの夢だったんだけど、母さんが亡くなってからこの魔法鍛冶屋に落ち着いちゃったから。」
「素敵です。必ず叶います!頑張ってくださいなのです。」
「ふふっありがとう。」
立派な夢なのです。だけどミルディの表情を見ると少し寂しそうな感じがしたのです。
でも、だからこそ、その夢を叶えたいというミルディの気持ちは伝わったのです。
私はミルディの顔を見る。その時、ミルディの肩越しに棚の上に置いてある小さな箱を見た。その中に入っているのはお守りだろか。そのお守りはペンダントになっているようで、チェーンの先には指輪が付いている。私は何故かそれがとても大切な物のように思えたのです。
「あっ。こんなところにあったんだ。これね母さんの形見なんだ。あたしが魔法鍛冶として一人前になったらくれるって約束したの。」
そう言ってミルディはそのお守りを手に取る。
「だからまずは、「賢者の石」もそうだけど一人前になるためにまずは鋼細工の仕事を成功させないとね!」
そうミルディは笑顔で私に伝える。大切な夢に向かって輝いているミルディを見て私も嬉しくなったのでした。
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