102. 聖譚曲(オラトリオ) ~アリーゼside~
ランバートの軍勢を説得する覚悟をした私はミルディと共にその軍勢をユトナ聖橋で待つことにしているのです。大丈夫。私にはミルディがついていてくれるのです。
「というか聞いてもいい?約束の期日までまだ2日あるけど本当にくるのかな?」
「もう来るのです。ランバート王国側は間違いなく早めに準備をするはずなのです。期日を迎えたと同時に侵略するはずなのです。」
絶対的武力とはそういうものなのです。 前に本で読んだのです。だから、それに対抗する為にもこちらも早く準備をしないといけないのです。
「まぁあたしはアリーゼを信じるだけだけどね。」
「ありがとうなのです。ミルディ」
その言葉はきっと信頼してくれているからこその言葉だと思うのです。でも、だからこそ応えたいと思うのです。そして、この先まだまだ一緒に世界中を旅するために……。
そんなことを考えているとミルディが造ってくれた通信魔法具が光だす。
「ミルディ!通信魔法具が光ってるのです!」
「あっ本当だ!何かあったのかな?」
「ミルディお願いなのです。」
ミルディは通信魔法具に魔力を込める。そして話し始める。
「もしもし?ミルディだけどどうかした?」
《ソフィアです。無事聖女マルセナ様を保護できました。》
「えっ!?本当に!?良かった!」
マルセナが無事…本当に良かったのです。そして通信魔法具の向こうにはマルセナがいるのです。私がカトリーナ教会を破門にあったあの時から一度も会話をしていない。
それにマルセナはまだ私の事を嫌っているかもしれない。でもそんなことは関係ないのです。今はマルセナが無事でいたことを喜ぶべきなのです。早く声が聞きたいのです。
《あのソフィアさん。少しいいですか?ふぅ…あの…アリーゼ?》
マルセナの声が聞こえる。それが聞こえ不安が一気になくなる。私はいつも通り言葉を返す。
「その声はマルセナなのです?お久しぶりなのです。無事で良かったのです。」
《えっ…ええ…》
なんかよそよそしいのですね?もしかしたらやっぱり嫌われてるのです!?それとも緊張してるのでしょうか?でもなんだか久しぶりに聞いた声なのです。それだけなのに胸の奥が暖かくなるのです。
「それでそちらの様子はどうなのです?何か困ったことはないですか?」
その質問にマルセナは今までの経緯を話す。なるほどライアン王子とその使用人たちが…また公開処刑なのですか。許せないのです!そんな時マルセナは泣きそうな声で言葉を呟いた。
《だから…私は助けたい…》
その気持ちを聞いて私は、そう言ったマルセナの顔を思い浮かべて嬉しく思う。だから言ってあげるのです。
「……助けるのです」
《えっ?でも私は…もう聖魔法は使えない…》
「聖魔法?そんなの関係ないのです。マルセナは立派な聖女なのです。あなたならできるのです!」
私が知ってるマルセナはとても優しい子なのです。それにとても努力家だったのです。だから大丈夫なのです。だって聖女のマルセナはいつもあんなにも素敵な笑顔を見せてくれたのです。そして私は続けて話す。
「マルセナ。いつからか仲が悪くなってしまったけど、私はあなたのことを同じ「聖女」として尊敬しているのです。」
《アリーゼ…》
「だからマルセナ。あなたが止めるのです!助けるのです!聖女として!」
《うん…》
その言葉を聞いた後、通信魔法具越しに涙ぐむような声が聞こえてくる。
「ごめんアリーゼ…もう限界かも…」
そして最後にもう一言だけ言うのです。
「マルセナ。必ず会いましょう。私も必ず聖女として止めるのです!」
ミルディの魔力が切れたのか通信魔法具が光を失い通信が切れる。でも私の精一杯の思いはマルセナに伝わったはずなのです。
「ごめんアリーゼ。私にもう少し魔力があれば…もう少し話せたのに。」
「いいえ。ありがとうなのですミルディ。私はそもそも魔力がないのです。助かったのです。それに私の思いは伝わったはずなのです。きっとマルセナなら止めてくれるはずなのです。」
さっきまでの重い空気はなく、私たちは笑みを浮かべていた。すると突然、遠くの方から馬蹄の音と大きな叫び声のような音が聞こえてくるのです。
何事かと思いふとその方向を見るとそこに黒い鎧を着た大軍勢がこちらに向かってきているのです。あの紋章…あれがランバート王国の軍勢。思ったより多いのですね。
「来た…いよいよだねアリーゼ。」
「そうなのですね。マルセナが必ず処刑を止めてくれるのです。私も必ずランバートの軍勢を止めて見せるのです。」
私とミルディは立ち上がり一歩ずつ前に進んでいく。圧倒的な数の軍勢に恐怖心がないわけじゃない。それでも私は聖女として諦めてしまうことのほうが怖いのです。でも大丈夫。あの時のマルセナの顔を思い出せば不思議と勇気が出てくるのです。それに私にはミルディもいるのです。
これが私の聖女としての覚悟なのだから。私が尊敬する聖女マルセナに勇気を与えられているならもう迷うことはない。
私はその軍勢に向かって一歩ずつ歩いていくのでした。
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