アロハシャツは二人もいらない

ギン
ギン

プロローグ

公開日時: 2022年8月10日(水) 18:45
文字数:1,257

 何重にもして丸めたティッシュをゴミ箱に投げ捨てると、漠然とした不安が心を襲った。

「私はこのままでいいのだろうか?」


 私という人間を客観的事実に基いて簡潔に説明するならば、変人である。両親や友人からは「お前は少し変わっている」と言われ、好きだった人に告白したときには「あなたを理解出来る気がしません」と断られ、高校の先生からは三者面談で「アメリカの大学に行くには……」と勝手に進路を海外に設定されていた。

 そう言われるのも仕方ない。いや、仕方ないというよりむしろそう言われてしかるべきなのだ。理由は単純明快、私は生まれてこのかた20年間変な人だと思われたいが為に変人を演じてきたのだ! 自白しよう。私は変人でもなんでも無い、取り立てて特徴のない普通で平均的で月並みな人間である! 何故そんな風に思われたかったか、具体的にどのようなことをしてきたはここでは省略させてもらう。わざわざ思春期黒歴史を掘り起こして自分を苦しめるような癖は持ち合わせていない。

 そんな自分に危機感を感じ初めたのは1年前、大学に入学した頃である。こじらせていた私は興味がないにも関わらず芸大に進学した。美術や演劇など技術を必要とする学部では授業についていくことはおろか、合格することも難しいと判断した私は少しは本を読むという事もあって文芸学部を選択した。

 大学でも変人というキャラクターを確立しようとした私だったが、すぐに挫折することになる。最初のインパクトが大事だと思った私は、入学式には浴衣に下駄という古風な格好で出席した。当初の予定では視線を集め少し浮く予定だった。しかし、隣の席に座っている男の格好を見たときにそれは無理だと悟ることになる。その男は上裸だったのだ。それもただの上裸ではない。サスペンダーを着けているではないか。衣類を一つ身につけることで、裸よりも犯罪性を増すことが出来るのだと感心したものだ。それと同時にこいつとは関わらないでおこうと決心したのは言うまでもない。

 入学以後、そのような予想を遥か超える出来事が何度もあった。その度に私は自分の凡人度合を自覚し、またこんな人間になってもいいのかと疑義の念を抱いた。おそらく私の目指す道の先に彼らはいるのだが、彼らのようになりたいかと聞かれたら断固として否定するだろう。

 そのような訳で冷静になった私は半年ほど前から変人であることを諦め、なんの生きがいも存在意義もなく、大学生の本分である怠惰を全うしていた。


 ……ただ、本当にこのままでいいのだろうか?

 二年生になり、ものぐさ精神に拍車が掛かった。今日だってもう正午だというのに、したことといえばエアコンを点けたことと息子の世話ぐらいだ。


 なにか自分に見つけないと。目標でもアイデンティティでも何でもいい。なにかいいのは……。――そこで急に眠気が襲ってくる。二度寝とは逃げることの出来ない大学生の性である。

 二時からアルバイトがあるため一時間半ほど寝よう。そう思い再び横になった私は合理的風先送りグセから、自分の価値を見つめることを当面の課題にした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート