少年ロマーナは如何にして少女化を受け入れ、歪んだ愛情を向けてくる少女たちを愛すか

サイバーパンクな世界で魔術師の少年がTS化してヤンデレに囲まれる話し
ひがしやま
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002 繊細なのか大物なのか

公開日時: 2022年9月7日(水) 23:12
文字数:1,180

 背筋はとうの昔凍った。いま凍り始めているのは血そのものだ。

 ロマーナは手を震わせながら、なんとかパールへ電話をかける。


『なに? 警察が盗聴してる可能性があるから手短に』


「……あの注射って」


『言いたいことはわかるわ。そう、私がやったのよ』


「い、いますぐ自首したほうが……」


『あたしはこの街の第5位よ?』


 そう言われ、電話を切られてしまった。

 ロマーナは立ち上がり、しばし家の中を歩き回る。しばし歩くと、再び座って地震でも来たように頭を守る姿勢になって、「どうしてだよ!!」と怒号を飛ばす。


「お兄ちゃん……?」


 ロマリアが心配してロマーナの元へ向かう。


「もしかして、お兄ちゃんが女の子になっちゃったのって……」


「……パールが変なものを打ってきたんだ。たぶんそれの所為だし、あの子はもう巻き戻しが効かないところにいるのも確かだよ」


 ロマーナはもはや涙目であった。


「……サイバーパンク・ヨコハマはパールを決して逃さない。この街はあの子の敵そのものだから」


 財政破綻を起こし、再建のために国と時価総額1,000兆円の超大企業『創麗そうれい』と手を組んだヨコハマ市。幼児のとき見ていた景色は、いまやもうどこにもなくなった。

 そんな街にて、他国からやってきたよそ者として、家が隣にある幼なじみとして、唯一無二の存在であるパールが、まさか強盗に手を染めてしまうとは……。


「で、でもパールちゃんってカテゴリーⅥでしょ? サイバーパンク・ヨコハマ(CPY)の能力者評定で最高位じゃん? だ、だからきっと大丈夫だよ」


 されどロマーナは嗚咽を漏らす。もっとしっかり相手をしていれば、パールがあんな凶行に及ばなかったかもしれなかったのに。


「……オオヤ・カズヒサのことくらい知ってるだろ?」


「う、うん」


「技術と科学がすべてを制覇する街じゃ、研究者の地位は高い。それに、この街の本質はヤクザの世界と変わりない。パールが落とし前をつけなければ、あの子は脳みそすら分割されて殺される」


「……っ」


「……でも、泣いてばかりじゃいけないね」


 そんな中、泣いているだけでは問題はいなくならないと、ロマーナは涙を振り払い、立ち上がる。


「こういうとき、この街の陰謀に詳しいヒトがいるんだ。研究者たちとも交渉ができるかもしれない」


 雲をつかむような無邪気極まりない話だ。こんなとき、問題解決を導いてくれそうな者はいるものの、所詮その者も高校生の身分だ。できることは限られている。


「服、借りて良い?」


「……どこ行くの?」


「チカヒロに会いに行く。蜘蛛の糸をつかんでやるしかない」


「だったらうちも行くよっ! うちだってパールちゃんと仲良いんだから!」


「……構わないけど、この街の暗闇は果てがないぞ?」


 ロマリアはにこやかに笑う。それは強がりか、強いが故なのか。


「暗闇があるんなら松明《たいまつ》を置いてあげれば良いんだよ!」


 ふたりは情報屋の元へ向かう。


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