TikTokを通しての如月の恐怖動画が拡散されてから、1ヶ月の月日が経とうとしていた。季節は7月を迎え、これから先のお盆休みを実家に帰るか、旅行に行くかで盛り上がりを見せつつある時期に会社内では突入していた。
親しい同僚の自殺に、徳川は未だにショックが拭いきれなかった。
「悩んでいることがあれば、俺がすぐにでも相談に乗るべきだった。」
悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。
会社帰りに如月と二人で立ち寄った、うどん屋のごぼう天うどんが二人で食べたまさかの最期の晩餐になるとは思ってもいなかった。あのとき、まさか自殺をするような疲れ切っている様子などは見受けられず、いつもと変わらない、ムードメーカーで皆を笑わせていた。あの、屈託のない、あいつの笑わせるときの笑顔だけが、胸に残り離れない。きっと皆の前では我慢していたんだろうなあと思うと、生きているときにもっと自分が如月にしてやれることはあっただろうかと自問自答の日々だった。
そんな中、如月が生前に使っていたデスクを、今後入社してくる社員のためにも明け渡す準備をしなければならない必要性が生じ、徳川は致し方なく如月の使っていたデスクの中に入っていたものを次から次へと取り出し、資料として今後残せられるようなものは残し、ゴミになるような物は捨てていく作業に取り掛かった。
先輩社員の秋池靖が徳川に声をかける。
「一人で作業をするのは大変だろう?俺が手伝ってあげるよ。徳川だって如月と仲良かったんだから、こういう作業をすればするほど二人で過ごした思い出が蘇って辛くなってくるんじゃないか?」
秋池が気遣って徳川に話しかけると、徳川は「秋池リーダー。ありがとうございます。」と話すと二人でせっせと机の中に入っていたものをすべて取り出すことに成功した。
秋池が思わず「使えるものは使えそうだが、この一番下の引き出しに入っていたこのカメラとフィルムって何だろう?奥にあるのは映写機だよな?これってどう考えても仕事に使うようなものじゃないよな?」と徳川に話しかけた。
徳川が思わず「それって何なんですか?」と聞くと、秋池は「多分これって昔の動画を撮影するためのカメラなんじゃないかな。ちょっと待っててね。調べてみる。」と言って持っていたスマートフォンのGoogleのアプリで画像を撮って調べてみることにした。
秋池が調べた結果を徳川に報告した。
「スーパーエイトという商品で1965年にコダックが製造したカメラだ。隣にあるのはスーパーエイトの8mmフィルムという商品らしい。映写機は撮影した8mmフィルムの映像を映し出すことができるタイプのやつだ。」
秋池の話を聞いた徳川が「あいつは、ゲームの”妄想彼女”とそれからTikTokのアプリで心霊スポットに出向いては動画の生配信をするのが趣味でしたからね。そんな昔のカメラを使うような嗜好はあいつにはないと思います。」ときっぱりと言い放つと、秋池が「何が映されているか気にならないか?昼休みに会議室を借りて二人でフィルムの内容を見てみないか?」と徳川に話しかけると、徳川は「多分どうせ、使っていたとしても最近行ってきた心霊スポットとか何か映し出されているんじゃないんですか?それで心霊動画でも撮ってしまって隠したい気持ちでここ(=引き出し)に入れたんじゃないんですか?見ていい気がしないと思いますよ。」と答えた。
その答えを聞いた秋池は「まあまあ。内容はどうであれ、動画を見ることで如月がどうして自殺をしてしまったのかの理由を探れることはできるだろう?今後のことも考えて、前向きな気持ちになって徳川も見るべきだ。」と徳川に語りだした。
秋池に説得され、悩むこと2分ぐらいが経過したころだった。
「良いですよ。秋池さんと、あと今後の自殺対策と考えたら、僕や秋池リーダーのみならず、稲見部長にも動画を見せるべきだと思いますよ。」
徳川の出した提案に秋池は頷き「そうだね。職場における過労死対策のためにも稲見部長には見てもらう必要があるね。」と語りだすと、すぐ秋池はデスクで書類と向き合っている稲見に声をかけ、如月のデスクまで来るように呼び掛けた。
呼ばれた稲見はすぐ引き出しの中に入っていたスーパーエイトのカメラと8mmフィルムを見て、「内容が何なのか、確認をする必要があるね。」と話し、「8mmフィルムの数だけで合計で15本はあるね。仮に昼休みに全ての動画を見るのは1時間以内では無理だろう。何日間に分けて1日2本見るとかでも決めてみる目標でも定めないといけないね。」と話した。
稲見の意見を聞いた秋池は「そうですね。仰る通りだと思います。二週間はあればすべての動画は見れることが出来ると思います。」と話すと、稲見は「そうだね。それぐらいの期間があれば、如月が生前に何を撮影したのかがわかってくる。」と語った。じっと二人が喋る様子だけを伺う徳川だったが、如月がこんな昔ながらの機械を使ってでも動画を撮影した理由だけは、ありえないこととしか思えなかった。
二人の話に同調をするような形で徳川が動画を見ることに同意し、そして昼休みの12時になったと同時に3人は会議室へと向かい、映写機と15本あるうちの8mmフィルムの中から気になった2本を取り出し、部屋を暗くした状態で、撮影されてある動画の内容を確認することにした。
徳川が「まずはタイトル”楽しい飲み会”から再生しましょうか?」と稲見と秋池に声をかけると、稲見が「徳川君に任せる。」と言って、徳川が動画の再生の段取りを取り始める。準備が整ったところで、映し出される映像を食い入るように見始める。そこには、如月の姿などは映されていなかった。
場面は居酒屋だろう場所で、広いお座敷を貸し切った状態で飲み会が行われていた。
お座敷には20~30人はいるだろう、気持ちよく枝豆やスルメイカをつまみながらビールを飲んでいる様子が映し出されていた。その中で一番よく映し出されていた3人の30代半ばであろう男性に思わず注目をした。
「3人組の中でもこの手前にうつるロイド眼鏡をかけた人物と、奥にいる大人しそうな人と、さらにそのロイド眼鏡の人の隣にいる優しそうな感じの人って一体誰なんだ?どう見ても如月は映っていない。」
秋池がそう話すと、稲見があることに気が付いた。
「奥にいる人物はフェニックス・マテリアルの創業者の小鳥遊悟氏じゃない!!ほら、社長室に行けば壁に額縁で飾られてあるあの顔写真の人がこの動画に映し出されているということは、この動画はフェニックス・マテリアルが創業した当初を映し出した動画なのよ。何でこんな動画を如月君が持っているかしら。」
稲見が疑問に思えてならなかった。
秋池が「創業者の小鳥遊《たかなし》氏の生前の動画なら、後継の息子の護社長が持っていて当たり前なのにどうしてこれを護社長が持っていないんだという話になりますよ。」と稲見に語ると、稲見は徳川に「この動画以外の動画を再生してほしい。」と頼まれると徳川は「わかりました。」と言って次の動画の再生に切り替える。
タイトルは”望月の最期”と記されてあった。
再生すると、そこにはロイド眼鏡をかけた隣に座っていた優しそうな風貌の男の人がある場所に立っていた。カメラを前に語ったことは衝撃的な内容だった。
「モチヅキ・ドリーム・ファクトリーは借金が膨らみに膨らんだ結果、倒産する流れとなりました。俺を支えてくれている妻や子供達には家や車を財産差し押さえで失ったばかりでなく、数億円にも上る借金の返済を背負わされ、夫として父としてこの上なく力不足で満足な生活を送ることが出来ず申し訳ない気持ちでいっぱいです。どうかこの罪深い俺を許してください。そして俺は、裏切った小鳥遊を許さない。悪霊になってでも俺は小鳥遊に制裁をしてやるんだ!」
男はそう話すと撮影していたカメラを手放したのだろう、動画はたった数分間で終わった。
あまりにも衝撃的な内容だっただけに言葉を失い、互いの顔を見始める3人。
秋池が「今さっきの場所、どう見ても如月が自殺をした観音の滝ですよ。きっとこの動画を見て如月も誘発されたんじゃないんですか?それならば供養に出すべきなんじゃないんですか?」と稲見に提案するも、稲見は「このフィルムのタイトルに記載されてある”モチヅキ”という人物は誰なのか、そしてこの小鳥遊社長を取り囲むようにして映るこの3人組の正体を掴まないと、供養に出すよりもご遺族に帰すのが優先よ。」と話した。秋池が「それならば、護社長に”こんな8mmフィルムを見つけました。生前のお父様が映し出されているのできっとお父様が残されたものだと思います。”といって渡したら案外引き取ってくれるんじゃないんですか?」と喋るが、稲見は「それならば何で如月君が持っているの?だったらなおのこと家で保管をすればいいだけの話じゃない。きっと隠さなければいけない理由があったはずよ。」と答えた。二人の会話を聞いていた徳川は「僕、提案があります。護社長にも見てもらってこの8mmフィルムに映し出されている3人組の正体をご存知でしょうから聞き出したほうが無難かと思います。」と切り出すと、稲見は「護社長が見てくれるかどうかね。忌まわしいものかもしれないね。まあ話はしてみるよ。」と話した。
昼休みの動画撮影会を終えた後、稲見は社長室へと向かい、そして息子の護社長に話を持ち掛けた。「社長、見て頂きたい8mmフィルムがあります。お心当たりがあるかどうか教えていただけませんか?」
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