【完結:怨念シリーズ第2弾】裕(ゆたか)~呪いの拡散~

退会したユーザー ?
退会したユーザー

追い詰められらた末【完結】

公開日時: 2021年10月2日(土) 11:06
文字数:4,459

朝7時に起きた徳川は身支度を済ませた後に朝8時には家を出た。


夢だったのか現実だったのかわからない、早朝に俺が対面した望月裕との会話は何だったのだろうか。


何かの警鐘だったのだろうか。


いや、きっと俺も仲間の一員として引きずろうとしていたのかもしれない。



そう思いながら朝の9時には出社をすると、研究室内は悲しみに包まれていた。


「秋池リーダーに続いて、稲見部長も、観音の滝に行って自殺してしまうなんて。」


辛い気持ちは皆同じだと思いながら、研究開発をしている市販のアロマオイルを使える卓上型のUSBケーブルで充電することが出来るタイプの空気清浄機に力を注ごうと切り替えた。


後輩の加藤優磨がそんな徳川の様子を見て不審に思う点があったようだ。


「徳川さん、大丈夫ですか?」


そう話す加藤を見て、徳川は何事もないように笑って答えて見せた。


「大丈夫って大丈夫に決まっているから仕事をしに来ているのに決まっているじゃないか。体調が悪かったら休むに決まっている。体に鞭を打ってまで俺は出勤したりしないよ。」


徳川の答えを聞いた加藤はこう切り返した。


「徳川さん、違うんですよ。出勤したときからずっと顔が青ざめていて顔色が悪いですよ。何かあったんですか?悩みがあったら僕で良かったら相談に乗ってあげますよ。」


そう話す加藤を見て俺は思わず自分の顔をトイレまで行き確認をすることにした。


すると加藤の言われた通りに、徳川の顔の表情は青ざめていて、元気がなさそうに見えるのは明らかだった。


研究室に戻ってきた徳川は加藤に「朝来たときは、特にそんな熱のような症状なども無かったんだよ。風邪などひいていたら、鼻水が黄色くなるしね。至って俺は健康そのものだよ。だから安心してほしい。悩んでいることだって、加藤に相談するほどのものでもないしね。気遣ってくれてありがとう。」と答えた。


徳川の話を聞いて、加藤は「無理なら無理で無理しなくていいんですよ。如月さんに続いて、秋池リーダーや稲見部長まで自殺してしまったんですから。皆何事もないように働いているけど、本当は皆悲しいんですよ。でも仕事においてはその気持ちを引きずらないようにしているだけなんです。」と話し始めた。



加藤が発した言葉が胸に突き刺さったのか、徳川は「ありがとう。」としか言えなかった。


その日の晩のことだった。


家に帰った徳川は、風邪の症状が出ていないだけで、熱があるかもしれないと思い、薬箱に入れてある体温計を取り出すと、早速熱を測ってみる。


「36.2度か、微熱とも言えないし熱とも言えないなあ。まあいいや、今日も自分の体調の事を考えて、健康第一に考えて行動をするか。」


そう思い、晩御飯にお粥を作って食べると、早めにお風呂に入り、夜の21時には就寝をすることにした。


ベッドに入り、寝ようとしたがやはり眠れなかった。


そんなときにふとあることが気がかりとして残った。


「観音の滝が気になる。」


考えた徳川は、着替え始めると、観音の滝へと走らせることにした。


「今朝がたの望月裕はきっと俺が死ぬまで諦めず粘り強くいじめてくるに違いない、俺が望月ゆたかの御霊と話し合って蹴りをつけないと、きっとこれから先も俺は望月ゆたかの存在に悩まされるに違いない。」


徳川が観音の滝に到着をしたのは夜の22時を回っていた頃だった。


辺りは静寂な暗闇の世界に包まれていた。


スマートフォンの懐中電灯の灯りだけを頼りに、徳川は観音の滝の滝面へと近づけることが出来るポイントへとやってきた。近づけば近づくほどより不気味さだけが増していく。「怖いけど、望月ゆたかと闘ってこないといけない。」


強く意気込んでさらに奥のほうへと進んでいく。


そして観音の滝の滝面の付近までやってくると、徳川は叫んだ。


「望月裕!いるんだろ!いるんだったら出てこい!!」


望月裕の名前をあげて叫んだとしても、風で木々が揺れるだけだった。

すかさず徳川が叫び始める。


「おい!隠れていないで出てこい!俺は望月裕と闘いたい!この観音の滝のボスなら仲間の事を考えて我先に逃げるのは論外だぞ!望月ゆたかがこの滝のボスなら、ボスらしく俺と1対1できちんと話し合いをしよう!さあ、俺の前に姿を見せるんだ!!」


すると、木々の揺らぎが益々激しくなっていく。


風によるものではないのは明らかだった。


その様子を見た徳川は、「ボスのお出ましだな!かかってこい!!」と身構えて叫んだ。しかし、何も現れてこない。徳川がたまらず「俺が霊感がないだけで、この場にはしっかりと居るってことを表明したいだけか?そうだろ、望月裕よ!俺にかけた呪いをさっさと解きやがれ!俺は望月裕なんかに屈したりなんかしない!!」


いくら叫んでも、徳川が見た顔面を激しく岩に打ち付けた痕跡があり、原形をとどめていないという見た目の何者かは現れてこないばかりだった。


「出てこい!この弱虫野郎!」


徳川ただ一人だけが滝面の付近で大声を上げて叫んでいるばかりだった。


叫び始めて、1時間以上は経過した。


「スマートフォンの時計はあと少しで日付が変わる23時50分になった。しかしここまで来たからには俺もめげたりしない。望月裕、お前がもう一度俺の前に姿を見せるまで俺はとことん叫び続ける。出てこい!俺は自分の声が枯れるまで叫んでやる!俺はお前が観念して成仏するまでを見届けてやる!!さあ姿を現せ!!」


徳川が幾ら叫んでも叫んでも、時間だけが過ぎていく一方だった。


叫び続けてさすがにもう声が出にくくなっていた。


「クソッ!俺は負けない!俺にかけられた呪いがとかれるまで俺は望月ゆたかに負けない!」


目を瞑り自分に強く言い聞かせると、滝面に見覚えのある姿が水面に浮かんできた。


目を開けるとそこには如月が徳川の目の前に現れていた。


徳川が思わず「きっ、如月なのか?」と聞いた。如月は徳川のほうを見てにこやかな笑顔を浮かべながら徳川を見ている。そして手招きをしている。


徳川がたまらず「如月、何だよ。俺と喋りたいんだったらもっと近づいてくれよ。そこまで近づいたら俺死んじゃうよ。」と話した。しかし如月は微笑みながらじっと徳川のほうを見ているだけだった。徳川が観念して「わかった。出来る限り如月の傍まで近付くよ。」と話し如月が立っている付近まで近づくと、そこはもう滝だった。


気付いても逃げ場がなかった。


徳川は滝の激流と共に流れ落ちてしまった。


その様子を如月と共に、望月ゆたかがにこやかな笑顔で微笑む。


徳川が滝へ落下していく様子を見届けた望月は「ようこそ、徳川航星君。俺の仲間として盛大な歓迎会を開かないといけないね。」と話すと、近くの如月と秋池と稲見に話しかけ、「滝壺の中で浮かんでいる徳川に話しかけてこい、”正式に俺の仲間として迎えてやる。”ってね、リーダーの俺からのサプライズは何にしようか、お前らはどんなサプライズが徳川には喜んでくれると思う?」と話しかけた。


明くる日の朝。


徳川がいつになっても出勤をしてこず、休む場合はいつも連絡をしてくるのだがその一本すらないことを疑問に思った加藤が吉見兼也部長代理に相談、吉見から連絡をするも電話がつながらず、吉見は加藤に「徳川の家は知っているか?」と訊ね、加藤は「はい!知っています、見に行ってきましょうか?」と話し、吉見は「体調が悪くてぐったりしているかもしれないから見に行って様子を報告してほしい。」と指示を出した。加藤が徳川の住んでいるマンションに足を運ぶも、ガレージにとまっているはずの徳川の車がない事に気が付き、吉見に連絡をした。


「徳川さんのマンションまで来ましたが、車がとまっていません。どこか出かけた可能性があります。」


加藤は吉見に報告をすると緊急連絡先の徳川の母親に連絡を取ってみる。しかし実家には帰ってきていないことがわかり、仕方なく遅れて出勤してくるだろうと思い、加藤に「戻ってこい。」と指示を出した。加藤は「わかりました。」と言い、そして吉見に「観音の滝へ行った可能性も考えられませんか?必要性があるなら僕行って確認をしてきますよ。」というと、吉見は「加藤、まさか徳川が如月や秋池、稲見部長の後追い自殺をしたとでも言いたいのか?」と切り出すと、加藤は「僕はその可能性があると思います。駐車場に車がとまっているかどうかだけ見てきますから、それさえ確認できればすぐ戻ります。」といって電話を切った。


加藤が観音の滝の駐車場にやってきた。まずは第1の駐車場にとまってある車を一台一台確認していく。すると見覚えのある紺色のアルトラパンがとまってあった。


確認のため、近くの観光案内所へと足を運ぶと、そのアルトラパンなら朝からとまってあることを確認した。加藤は結果を吉見に連絡すると、吉見は警察に自殺を図った可能性もあるとみて通報した。その日の正午過ぎの事だった。通報をした吉見宛に警察から連絡が入ると、滝壺の中から男性と思われる遺体が見つかったと連絡があった。しかし岩に顔面を強く打ち付けた痕跡があったため、この状態では誰かが区別がつかないため、DNAの検査を行った結果、遺体は徳川だと判明したのは後日の事だった。再び研究室内には悲しみが包まれる中、それでも与えられた仕事を全うしていくしかない。


徳川の死を機に、フェニックス・マテリアルは罪改め変わっていくかとなると、過労や精神的ストレスが招く自殺予防対策だけが進んでいくのだった。


会社の組織的な体制は変わらない。


徳川が死んでから2か月後の12月には徳川の後継として新たにまた一人、中途採用だが社員が新たに入ってきた。吉見は部長代理から部長へと昇格していた。加藤は指導役として、少しずつだが自分のポジションを高めていく。


加藤は仕事が休みの日曜日に、改めて徳川の御霊を弔いたい一心で、身を投じた観音の滝の滝壺の付近へと足を運ぶと、買ってきた菊の花を滝の方向へと投げた。


「どうか安らかに眠ってください。」


加藤が滝の方向へと向かって拝むと、その様子を滝壺の中からふと誰かに睨み付けられたような気がした。何かの気のせいだと思い、その場を後にしようとしたが、やはり誰かの視線を感じた事だけが気になって仕方がなかったので、滝のほうへと振り返る。そこには見た目の区別がつかない、顔面を激しく叩きつけられた痕跡のある得体のしれない何かがそこにはいた。


「化け物だ!」


慌てて駐車場まで戻り、見た事を忘れてしまいたいぐらいの勢いで、その場を去ると、加藤も望月ゆたかに憑かれてしまったようだ。


「徳川さんはあんなことはしない、あれは一体誰なんだ!?」


加藤の中に気持ち悪いものをみてしまったという感情だけが拭えなかった。


そして大晦日の夜。


世間は2022年を迎えるためのカウントダウンパーティーで盛り上がる中、加藤はただ一人、夜の23時に観音の滝へとやってくると、今まで訪れてこなかった滝面の近くへと何かに導かれるようにやってくると、続けて滝面へとダイブをして自らの命を絶った。


望月ゆたかの怨みが抱く念は何年経てど消えそうにはない。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート