「其れデ――ダ」
カフェ、とかいう人族のよく使う飲食店で、オレは彼女と向かいあっていた。
「付き合ウ、というのは具体的二、何をすればいイ?」
「ザーフィ君は、誰かとお付き合いしたことはないのですか?」
「なイ……というカ、そもそもオレたちハ、其ういうことをせんのダ」
「ええっ」
意外そうに、フィリアは目を丸くした。
「レンアイ、とかいう概念が在るのは知っていル。人族との関係も短くはないのでナ」
「リザードマンは恋をしないのですか?」
「しないわけではなイ……と思うガ、オレたちの場合、メスと子を成せるのは族長ト、あとは氏族で最も強い戦士だけなのダ」
「そうなんですか。じゃあ、それ以外の男の人は?」
「メスと話すくらいは許されているガ、生殖行為に及べば命はなイ。そういう掟ダ」
「ああ、よかった」
ぽん、とフィリアは胸の前で手をあわせた。
「なにガ、良かったのダ?」
「その掟、他種族は対象外ですよね。だったらなにも問題ありません。蜥蜴人が恋をしない種族だったら困ってしまうところでしたが、そっちも大丈夫そうなので安心しました!」
「前向きなのだナ」
オレはちょっと感心した。
「其れデ、話をもどすガ……」
「なにをすればいいかという話ですね。さしあたっては、恋人らしくすごしてくれればいいかと」
「恋人らしク?」
オレは首をかしげる。
その点からして、オレには見当もつかない。
「まずはできるだけ長い時間、いっしょにいることです。そして、お互いのことを知っていくんです」
「何の為ニ?」
「愛の喜びを享受するためです!」
そう力説するフィリアの顔は、興奮のためか、すこし赤らんでいた。
「お前の言葉は所々抽象的だナ。オレたちトカゲの脳味噌には理解し難イ」
「難しく考える必要はないですよ。ほら、いまここでこうしていることも、その一環なんですから」
「其うなのカ。何時の間にカ、其んなことニ……」
「このあとは、広場をいっしょにまわりましょう。おしゃべりしながら、いろんなお店を見て……あっ、いきたいところがあったら遠慮なくいってくださいね。ザーフィ君の好きなものや好きなこと、もっと知りたいですから」
そういって、彼女は満面の笑みを浮かべた。
たぶんそれは、人族の目から見たら、輝くような笑顔だったのだろう。
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