バラックシップ流離譚

異形ひしめく船上都市
葦原青
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ザーフィ・2 恋人とは?

公開日時: 2020年12月23日(水) 00:01
文字数:925

「其れデ――ダ」


 カフェ、とかいう人族のよく使う飲食店で、オレは彼女と向かいあっていた。


「付き合ウ、というのは具体的二、何をすればいイ?」

「ザーフィ君は、誰かとお付き合いしたことはないのですか?」

「なイ……というカ、そもそもオレたちハ、其ういうことをせんのダ」

「ええっ」


 意外そうに、フィリアは目を丸くした。


「レンアイ、とかいう概念が在るのは知っていル。人族との関係も短くはないのでナ」

「リザードマンは恋をしないのですか?」

「しないわけではなイ……と思うガ、オレたちの場合、メスと子を成せるのは族長ト、あとは氏族で最も強い戦士だけなのダ」

「そうなんですか。じゃあ、それ以外の男の人は?」

「メスと話すくらいは許されているガ、生殖行為に及べば命はなイ。そういう掟ダ」

「ああ、よかった」


 ぽん、とフィリアは胸の前で手をあわせた。


「なにガ、良かったのダ?」

「その掟、他種族は対象外ですよね。だったらなにも問題ありません。蜥蜴人サウラが恋をしない種族だったら困ってしまうところでしたが、そっちも大丈夫そうなので安心しました!」

「前向きなのだナ」


 オレはちょっと感心した。


「其れデ、話をもどすガ……」

「なにをすればいいかという話ですね。さしあたっては、恋人らしくすごしてくれればいいかと」

「恋人らしク?」


 オレは首をかしげる。

 その点からして、オレには見当もつかない。


「まずはできるだけ長い時間、いっしょにいることです。そして、お互いのことを知っていくんです」

「何の為ニ?」

「愛の喜びを享受するためです!」


 そう力説するフィリアの顔は、興奮のためか、すこし赤らんでいた。


「お前の言葉は所々抽象的だナ。オレたちトカゲの脳味噌には理解し難イ」

「難しく考える必要はないですよ。ほら、いまここでこうしていることも、その一環なんですから」

「其うなのカ。何時の間にカ、其んなことニ……」

「このあとは、広場をいっしょにまわりましょう。おしゃべりしながら、いろんなお店を見て……あっ、いきたいところがあったら遠慮なくいってくださいね。ザーフィ君の好きなものや好きなこと、もっと知りたいですから」


 そういって、彼女は満面の笑みを浮かべた。

 たぶんそれは、人族の目から見たら、輝くような笑顔だったのだろう。


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