いったい何の冗談か――最初は、そう思った。
次に浮かんだのは、ハメるつもりか? ということだ。
だが、オレはしがないオスの蜥蜴人――いわゆるリザードマンだ。
金も地位も名誉もない。
騙したところで何の得があるとも思えなかった。
「あなたのことが、好きです」
オレの手を取り、まっすぐな瞳を向けて、その人族の女はいう。
というか、女の子、といったほうがいいのかもしれない。
人族の歳はよくわからないが、身体は小さいし、華奢だし、声もどことなく幼い気がする。
「いヤ、其れハ判っタ」
何しろ、会うたびに同じことを繰り返されているのだ。この後はきまって、つきあってください、と続く。
「本気なのカ?」
「もちろん!」
「何デ?」
「好きだからです!」
話が進まない。
「オレは、此の通りノ蜥蜴人だガ……」
「大丈夫です!」
困った。
オレのあまり出来の良くない頭では、これ以上の反論は思いつかない。
とにかくダメだの一点張りで逃げるという手も、すでに実践して通じないことが証明されている。
まったくワケが判らない。
いったい何がどうなって、こんなことになったものやら……
だが、判らないなりに、一つだけ確かだと思えてきた。
彼女は、真剣だ。
少なくとも、冗談だとか、騙すとかからかってやろうとか、そういう意図は感じられない。
彼女の頭がどうにかなっているのだとしても、それだけは信じてもよいだろうと、判断した。
だから、オレは首を縦に振ることにした。
そのうち彼女が目を覚ますだろうことを期待して。
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