バラックシップ流離譚

異形ひしめく船上都市
葦原青
葦原青

ザーフィ・1 告白受諾

公開日時: 2020年12月22日(火) 00:01
文字数:617

 いったい何の冗談か――最初は、そう思った。



 次に浮かんだのは、ハメるつもりか? ということだ。

 だが、オレはしがないオスの蜥蜴人サウラ――いわゆるリザードマンだ。

 金も地位も名誉もない。

 騙したところで何の得があるとも思えなかった。


「あなたのことが、好きです」


 オレの手を取り、まっすぐな瞳を向けて、その人族の女はいう。

 というか、女の子、といったほうがいいのかもしれない。

 人族の歳はよくわからないが、身体は小さいし、華奢だし、声もどことなく幼い気がする。


「いヤ、其れハ判っタ」


 何しろ、会うたびに同じことを繰り返されているのだ。この後はきまって、つきあってください、と続く。


「本気なのカ?」

「もちろん!」

「何デ?」

「好きだからです!」


 話が進まない。


「オレは、此の通りノ蜥蜴人サウラだガ……」

「大丈夫です!」


 困った。

 オレのあまり出来の良くない頭では、これ以上の反論は思いつかない。

 とにかくダメだの一点張りで逃げるという手も、すでに実践して通じないことが証明されている。

 まったくワケが判らない。

 いったい何がどうなって、こんなことになったものやら……



 だが、判らないなりに、一つだけ確かだと思えてきた。

 彼女は、真剣だ。

 少なくとも、冗談だとか、騙すとかからかってやろうとか、そういう意図は感じられない。

 彼女の頭がどうにかなっているのだとしても、それだけは信じてもよいだろうと、判断した。

 だから、オレは首を縦に振ることにした。

 そのうち彼女が目を覚ますだろうことを期待して。


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