「え? あっ……」
「何度も言うが、自分の手の内を安易に晒すなよ……。よくそんなのでやってこれたな」
能ある鷹は爪を隠すという異国の言葉がある。
王族として育てられた俺の回りには、能力があってもそれを秘匿する者が多かった。
お互いがお互いに一定程度の敬意と警戒心を持っている。
無用なトラブルを避けるためにも、手の内を隠すのは当然のことだと思っていたのだが……。
(こいつらは、そうではないということか……)
少し認識を改める必要があるかもしれない。
スラムに巣食うような奴らは、知能が低い。
自分の能力を隠していては、バカな奴らから舐められてしまうのだろう。
その環境によって、適した振る舞い方が違うのだ。
「ふぅむ……。悪くはないナイフだな。もらってもいいか?」
「なっ!? ふ、ふざけるな! それは俺のとっておきの――」
「分かった分かった。なら、こういうのはどうだ?」
俺は男に提案をすることにした。
まぁ、問答無用でぶち殺して奪ってやってもいいのだがな……。
「ちょっとしたゲームだよ。それに俺が勝てば、このナイフをもらう」
「な、何を……」
男は動揺しているが、この場から逃げ出したり俺へ攻撃する素振りは見せない。
先ほどの俺の超高速移動を見ているしな。
今さら逃走や抵抗は無駄だと悟りつつあるのかもしれない。
「ほら、一度このナイフは返す」
「あ、ああ……」
男がおずおずとナイフを受け取る。
「そのナイフで俺を攻撃してみろ。麻痺毒とやらが俺に効かなかったら、そのナイフは俺がもらう」
「なっ!?」
「どうだ? チャンスをあげようと言ってるんだぞ。本当は問答無用で奪っても良かったのだから」
「て、てめぇ! 後悔しやがれっ!!」
男が俺に向かってナイフを突き出す。
(遅いな……)
思わずあくびが出そうだ。
避けて適当に反撃してもいいのだが、もちろんそんなことはしない。
これはゲームだからな。
俺は敢えてそのナイフを体で受ける。
ガキンッ!
「んぎゃっ!」
男が悲鳴を上げる。
「ああ、悪いな。闘気を纏ったままだったよ」
S級スキル竜化を持つ俺の肉体は、非常に頑強だ。
さらにそれを闘気で常時強化しているので、並の攻撃では傷ひとつ付かない。
さながら、巨大で強固な鉱石のようなものだ。
それに対してたかがナイフで攻撃を加えようものなら、ダメージを受けるのは攻撃者となる。
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