「ふむ。スラムを拠点にした違法奴隷商の摘発か……」
俺は書類に視線を落とし、呟く。
「はい。しかし、ライル様は本当にお優しいですね。ご寵愛を下賜するばかりではなく、仕事を1つ引き受けてくださるとは……」
アイシャが感心するように言った。
これは、彼女が元々受け持っていたギルド案件だ。
違法奴隷商の情報を集め、適切に冒険者を手配し、摘発をするというのがギルドの仕事である。
純粋な狩りであれば冒険者パーティに丸投げすることも多いらしいが、こうして町中の問題に対する取り組みの場合はギルド職員が旗を振ることもあると言う。
「まぁ、無茶振りしすぎるのも良くないしな。俺にとっては大した手間ではないし、一応のメリットもあると考えているんだ」
「メリットですか? それはいったい――」
アイシャがそう問い返したときだった。
「おうおう! お前が新しく作戦に加わったって言う新参の冒険者だな!」
ギルドの受付横にある掲示板に張り付いていた男がこちらにやってきた。
筋骨隆々の大男だ。
スキンヘッドで左目には大きな傷痕がある。
その容貌からは歴戦の戦士という印象を受けた。
「あ? 誰だアンタ?」
「ちょっと、ライル様に向かって失礼ですよ」
彼の態度が気に入らなかったのか、アイシャが眉をひそめた。
俺も同じ気持ちだ。
「ライル”様”だぁ? おいおい、高位ギルド職員が特定の冒険者に肩入れして良いと思ってるのかよ!」
「そりゃ、有望な冒険者は少しくらい贔屓しますよ。あなたも悪くはありませんけど、ライル様に比べれば木っ端な存在ですし」
アイシャは一歩も引く様子がない。
「……この女ァ、上等じゃねぇか。俺はお前が声を掛けてきたから、この作戦に参加してやろうっていうのによ」
男の顔に青筋が浮かぶ。
ああ、なるほどな。
違法奴隷商の摘発には、一定の戦力も必要だ。
俺が参加することが決まる前は、この男を戦力として期待していたのだろう。
筋肉は付いているし、悪くはない選択だな。
しかし、俺が来て状況が変わった。
S級スキル竜化を持つ俺なら、1人で十分すぎる戦力となる。
後はせいぜい、違法奴隷商の情報集めが必要なぐらいか。
ただの戦力でしかない男はお役御免だ。
男としては面白くないだろうな。
「まあまあ、落ち着けよ」
「ああんっ!?」
俺はとりなそうとするが、ドスの効いた声ですごまれてしまった。
今にも殴りかかってきそうだ。
もしかしたら、彼はこういう荒事が好きなタイプなのかもしれない。
脳味噌まで筋肉でできている奴のようだ。
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